創元推理文庫 BETE A EN MOURIR 安堂 信也 訳
アルジェリア戦争で青春を棒に振った三十男ロベールは、ふとであった小娘ミヌーに一目惚れ、結婚するが、考え方のずれははっきりしている。男は、孤独から逃れるために結婚したのだが、女は、自尊心を満足させるためであり、結婚とは自由を約束するものであり、セックスはコミュニケーションの一手段に過ぎない。
そんな折り、放浪の旅を続けている若者ブラデイと知り合いになった女は、その自由奔放な生き方に魅せられ一夜の宿を貸すが、それがそもそもの争いの始まり。ブラデイとミヌーが関係し、お定まりの衝突、ロベールは殺されてしまう。
事件は事故として処理されるが、ミヌーは真実を知っており、復讐を心に決意する。ロベールの愛犬トロールを手なずけ、ついにブラデイを殺してしまう。
今度はそれをユビュ婆さんが見ていた。これも事故として片づけられるが、二人の冷たい関係に耐えられなくなったのか、ミヌーは出て行き、やがて交通事故で死んでしまう。
トロールは、危険な犬として愛犬家保護教会に捕まるが、いまやユビュ婆さんの生き甲斐はトロールだけ。苦労してロベールの旧友の姉夫婦に頼み込み、助け出してもらう。
事件の進行に連れてトロールの告白が開示され、それを通じて作者の考えが示されている。「言葉という天の贈物とお互いの間の意志の疎通のための素晴らしい能力を持ちながら、あなた方人間はなぜそれを決して使おうとしないのだろうか。話して下さい。一体どうしてなのか?」(224P)が締めくくりの言葉である。
・女性週刊誌とポップ・ミュージックと友達つきあいを別にすれば、外に何の情熱も持たない。(39P)
・犯行直後に逮捕された殺人犯たちが、すぐ白状するのがなぜか、今や彼にも理解できた。休む暇がないからなのだ。犯罪は英雄的行為と同じくらいエネルギーを必要とする。(82P)
・左利き、右利き(103P)
・彼の心の中では、あくが突然発作的に吹き出して押さえられなくなる。(121P)
・老婆は間違っていた。あらゆる点で間違っていた。そもそもポーランド人であることが、また、年寄りで貧乏であることが、そして何より人の悪口を言うことがいけなかった(195P)
・キリストは三十五年間生きていた。男になる前に若者だったろうし、その前には少年だったはずだ。ところがそのころのことは全然話題に上らない。(204P)
・地獄とは、重力もない宇宙の虚無の中で無縁な天体の間を、魂を氷とかえる寒さに向かってそれて行くときの孤独のことなのだ。そう、孤独こそそれなのだ・・・・。(221P)
・実際にはあの三人は一度も心を通じたことがなかった(223P)