死者のノック      デイクスン・カー


創元推理文庫 THE DEAD MAN'S KNOCK 高橋 豊 訳

 「むらきな女」ウイルキー・コリンズを研究しているクイーンズ大学教授マーク・ルースベンの妻のブレンダはむら気で、夫が相手をしてくれぬと、遊び人のフランクの元に行くと出て行ってしまう。そこにトビー・ソーンダーズと歴史学教授サミュエル・ケントの娘で婚約者のキャロラインが、最近学内で起きた事件の相談に来る。校長のジョージが、巡回中に創立者の顔が体育館の床に夜行塗料で書かれているのを発見、消そうとすると目の前に鉄亜鈴が落ちてきた、あいているプールに水がはってあるのでジョージの孫のヒューバーがのぞき込むとプールに突き飛ばされ、溺死しかかった。サミュエル教授がこの事件の調査を依頼された、というのである。
そこにマークから「アーマデール」なる本を借りに、「レッドコテージ」に越してきたローズ・レストレインジ嬢がやってくる。いたずら好きで事件の犯人ではないかと噂される女性である。そこに妻のブレンダが戻って来る。3人が帰った後、ブレンダはマークとローズの間を疑い一悶着。
 翌朝マークに、不吉な匿名電話がありローズのコテージに駆けつけると、トビーとキャロラインが来ていた。トビーが、鍵穴にささった鍵をゴムで押しだし、すきまから入れた新聞紙の上に落として鍵を回収して、やっと部屋の中に入れた。ローズは三面鏡の前で弓なりにのけぞり、目をかっと見開き、胸に短刀を刺されて死んでいた
 「小利口な女」トビーはローズが色情狂で自殺しやすいタイプであり、密室だったから自殺に違いない、と説く。現場にあった本は不思議に借り出した本ではなく、同じ作者の「白い服の女」、「アーマデール」はカバー部分などを切り取られて図書館に返されていた。トビーの説に反対し、未亡人ジューデイスはローズは殺された、なぜなら小利口で冷酷、生きることに欲が深く自殺するような女ではなかった、現場は密室のように見えるがコリンズは外側から鍵を回す奇跡的な方法を4つもあげているから不可能ではないと思うと主張する。マークもつられてコリンズが「死者のノック」という密室小説を書こうとしていたと明かす。警察の調査が入り始め、なんとか密室の謎を解こうとマークが食後図書館にゆくと、ジューデイスがいてちょっと怪しげな関係になる。彼女は、警察には黙っていたが、ローズの部屋にブレンダが入るのを見た、という。そこにキャロラインが現れる。ジュデイースは誰かが彼らを見つめている感じた瞬間、大きな音。書庫の中を覗き、何かを発見、気絶する。
 「見知らぬ女」事件は公式には終わったが、フェル博士が真相を突き止めるべきと言う。フランクの話から、ブレンダは決して彼に走った分けではなく、ホテルに滞在していたことが分かった。戻ってきて復縁、あの夜現場に行き、誰か訪問者がいるのは認めたが中に入らなかった、と主張する。
 フェル博士は現場の状況から、犯人は「アーマデール」を読んでいるローズを後ろから切りつけたが、その際血で最初のページが汚れた。そこでそれを切り取って図書館に戻した、と解釈する。一方解剖学的に見たケント博士は、ローズは、決して愛した男はいなかった、彼女が愛したのは楽しむためのゆすりだった、体育館のいたずら者はローズではなく、犯人を発見して強請った為に殺された、と述べフェル博士を喜ばせる。
 「出しゃばりな男」マークはコリンズの手紙、フェル博士等との対談からほぼ真実を突き止めトビーと対決する。「ゴムで、あらかじめ内側からさしこんであった別の鍵を押しだし、回収した後、素早く本物の鍵と入れ替えて、私に見せたのだ。その上で私に電話をかけたり、死体を移動したり、ローズが借りた本を別の物と取り替えたりしたのだ。」トビーは認めたものの「ブレンダをかばってやったのだ。彼女を警察に突き出すのか。」
 そこにフェル博士が現れ「ブレンダは犯人ではない。」と解説を始める。「気の小さい犯人は、病院でのあの遊び人フランクとの情事を隠す目的で、我々の推理小説談義からヒントを得たいたずらを行った。もちろん、ジューデイスが図書館で見たのは、予想もしなかった犯人の顔!しかしそれを種にあんな風にローズに強請られたら、誰だって殺しかねない。それを友人の妻の犯行と考えて隠したトビーの気持ちも分かる・・・。」

この作品のトリックのポイントは、発見者で密室を作り出した男と犯人が別人だと言う点。またこのように「警察はブレンダが犯人かもしれないと考えているが、実は控訴をしたくない。だから信憑性がないことにしたのです。」という考え方は他の作品では見られない結末。ローズの性格づけ、マークとブレンダの夫婦関係が面白く描かれていることも特色。背景に「月長石」を書いたウイリアム・コリンズの研究が引用されている。
最後に「むら気な女」はブレンダ、「小利口な女」はローズ、「見知らぬ女」は犯人、最後の「出しゃばりな男」はトビーのことなんですかねえ。

・窓枠の掛けがね・・・「盗まれた手紙」(ポー)(155p)
・彼女は人生を愛していたが人間を嫌っていた。彼女は女が欲しがる物をすべて持っていたといっていいだろう。美貌、健康、知性、教養、金、あらゆる物に恵まれていた。しかし、私は・・・・人間嫌いである事を知った。・・・・そして彼女の「ゆすり」なるものは、人々の秘密を探り出して、それを暴露してやるといって驚かす事によって、彼らを苦しめる事だった。(243P)
・何が彼女にそのアイデイアを与えたのでしょうか。・・・・みんなが絶えず探偵小説の殺人事件について議論し、必然的に、疑惑をそらす最前の方法を語り合っていたのです。(330p)
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