死者との誓い ローレンス・ブロック


二見書房ハードカバー  THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD 田口 俊樹訳

 マット・スカダーが何となく好きになれなかった知り合いの弁護士が、公衆電話をかけている時に突然銃で撃たれて死んだ。近くにいたヴェトナム帰りの浮浪者ジョージ・サデッキが逮捕され、ポケットからやっきょうが発見された。ジョージの弟のトムから「兄はそんなことをする人間では無い。真相を調べて欲しい。」と頼まれる。被害者の妻リサ・ホルツマンに面会すると、彼女は夫が何をしていたのか、財産はどうなっているのか分からず困っていた。そして一緒に捜すと突然隠し金庫のなかから30万ドルが出てきた。彼女も、又、真相解明を彼に頼む。
 被害者が勤めていた弁護士事務所等を調べるが、地味な生活で、大体現在住んでいるマンションをどうやって手にいれたのか分からない。もちろん30万ドルもそうだ。故郷を出て金のかかるロースクールをどうしてでられたのか分からない。まもなくジョージが獄中死して、事件の調査は不要になる。
 それでもマットが調べると、ジョージは密告屋だった。脱税を密告すると、税務署からは密告によって徴税出来た金額に応じて金がもらえる、麻薬取引を密告すると、当局からお金がもらえる、そんなことで彼は大金を得ていたらしい。密告報償は金でなく差し押さえた不動産物件でもらうときもある。多分彼は密告が発覚してだれかに消されたのだろう、と言うことになった。この密告に報奨金をだすというくだりは、日本人の私には驚きの制度だった。さて、これで解決と思ったところが、別の殺人事件とのつながりに注目したマットは、実は誤認殺人らしいことに気づく。
 そんな筋立てに、これに昔の恋人ジャンに自殺のための銃探しを頼まれるなど、女性に絡む話、アルコール中毒の話などが絡む。
 小説を読みながら主人公のマット・スカダーの魅力は何だろうかと考えた。無免許の探偵、アル中矯正中、事件で助けた娼婦のエレインを恋人にもち、金銭的にはそちらから援助してもらっているらしい、そしてこの小説では犯人を特定する訳ではなく、被害者の妻と懇ろになったり、昔の恋人に呼ばれてみたり・・・・要するに欠点だらけの男なのだ。しかし男はやさしく、それなりの世界観を持ち、事件と正面から向き合い、その場に応じてベストを尽くす。読者は、自身も弱い人間あるがそれでも格好良く生きたい、と願っているから、マットに自己を重ね合わせて、うなずき、その行為に拍手を送る・・・こんなところかなと思った。読み終わってなんと言うことはないけれど、いとおしさの沸いた作品と思った。

・ホームレスもすでに通りに長居をしすぎていた。しかもその数はふえる一方で、慈善事業家たちのいう「同情心の披露」が人々の間に瀰漫し・・・・ (39P)
・「この町じゃ銃を所持するには許可がいる」「その許可をとるのは難しいんでしょう?」「ああ、とてもね。許可を取る一番いい方法は、ガン・クラブに入って講習を受けることだ。・・・」(79P)
・彼は女と言うのは象みたいなものだと言ったのよ「見るのは好きだが、飼ってみたいとは思わない」って(101P)
・雷に打たれてやけどをしたら、命が助かったことのお礼を言う代わりに、弁護士を雇って神様を訴える。それが今の平均的なアメリカ人のしてることです。(266P)
・別れた妻や子に暴力を振るいに来る夫を待ち伏せてヤキをいれる・・・探偵の仕事?(346P)
・今の私は、時間という者は浪費するには少なすぎる者だって事を知っている。今の私は、大切なことだけが大切なんだって事を知っている。だから小さな事にはくよくよすべきでないって事もね。(380P)
・わたしは鏡を見たのよ。わたしには自分のみすぼらしさが信じられなかった。でも、こう思ったの。だからなんなの?、って。自分のみすぼらしさとだってわたしは一緒に生きていける。そう思ったら、どんなことでも生きていけるって思えたの、それと一緒に生きていかなければならないのなら。(404P)

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