別れの朝         ロス・マクドナルド


ハヤカワ・ミステリ文庫 THE GOODBYE-LOOK 菊池 光 訳

弁護士ジョン・トラットウエルの依頼は「知り合いのチャーマーズ夫妻が終末に旅行に行き、帰ってみると書斎の金庫にしまってあった金の箱が無くなっていた。内密に探してほしい。」箱にラリイ・チャーマーズから母に当てた、太平洋戦争出征中の手紙が入っているという。
ジョンは昔ひき逃げで妻を亡くし独身。娘のベテイは、チャーマーズ夫妻の一人息子ニックと婚約している。しかしベテイに聞くと、最近ニックは夫のあるジーン・トラスクなる女性に気がある様子で、しかも何か秘密があるらしく打ち沈んでいるそうだ。まもなくジーンと一緒にいた集金人シドニイ・ハロウの射殺死体が、車の中から発見された。
金の箱はジーンの所持品の中にあったが、手紙はなくなっていた。ベテイの元に現れたニックを銃を奪って取り押さえ、尋ねると「シドニイを殺したらしい。銃は彼の車で見つけた」と青い顔で白状。話はややこしくなってきた。
凶器の銃の最初の購入者は、元銀行頭取サミュエル・ロ−リンソンだった。しかし十五年前それを娘が盗み、さらにその夫エルドン・スウエインが横取りしていた。その上彼は銀行の金50万ドルを横領し、情夫のリタと共にメキシコに逃亡。途中でその金をどこかに埋めたらしい。その後スウエインはメキシコから戻り、ニックの誘拐を試みた。翌日操車場で射殺死体が発見されたが、これがスウエインではないかと考えられた。
今はローリンソンの付き添いをしているシェパード夫人の前夫ランデイ・シェパードは、浮浪者に身をやつして、シドニイ等と共に、埋められた金を追っていた。しかし近くに住むローリンソンの孫ジーンを訪れると首を切られて殺されており、慌てる。おなじころ自宅を抱水クロラールなどと共に逃げ出したニックが自殺を試み、病院に収容された。三つの殺人事件にニックが関わっていたのだろうか。リュウはありえないと考え、むしろ真犯人がニックが再び襲われることを恐れた。
警察はランデイを犯人として追うが、事件は根深くメキシコ逃亡事件に端を発していた。犯人は、エルドンがニックに誤って殺されたことを良いことに、拐帯してきた金を奪った。リタと共に逃亡をはかり、邪魔になったジョンの妻をひき逃げに見せかけて殺してしまった。出征していたという偽の手紙を母に送って周囲を信用させた。もちろんリタは名前を変えて何食わぬ顔で戻った。
こうして彼らは幸せを得た。しかし、ニックが自分の出征の秘密を知ろうとして、動き始め、あの金の箱を盗み出したことから事件が蒸し返されそうになった。犯人は再び新しい殺人を犯さねばならなかったのだ。

家庭内の問題を扱っている、他の人物になりすます、出生の秘密探し、現在の事件が過去の事件に端を発している、などの点は他の作品「ウイチャリー家の女」「さむけ」などと共通である。
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