ウインター殺人事件      ヴァン・ダイン


創元推理文庫  THE WINTER MURDER CASE  井上 勇 訳

 まえがきで、ヴァン・ダインとして知られたウイラード・ハンテイントン・ライトの死後発見された制作完成段階における第二段階の原稿と断っている。そのため、各章の記述が外国推理小説にしては簡潔であるが、私にはむしろしまって感じられた。

 深い森と断崖に囲まれた大邸宅レクスン荘では探偵役のファイロ・ヴァンス等も含め、ニューヨーク社交界の常連が集まって大騒ぎを演じていた。そんなおり、番人リーフ・ウオーレンが死ぬ。さらに持ち主カリントン・レクスンが何者かにおそわれ気絶させられ、エメラルドの首飾りを奪われる。氷上では可憐な美少女が精魂傾けて妙技を披露する中、ファイロ・ヴァンスの推理がさえる。カリントンの友人バセットは指紋から大宝石泥棒であることが分かるが、彼は死体で発見され、第三者が存在することが明らかになる。
 しかし、最後はあっけなく、時報のサイレンの音と、家政婦ブルースが盗まれたエメラルドを、実は婚約者の医者から渡されたと証言したことから、はっきりしてしまう。

付録に推理小説の二十則、推理小説論がついている。
・推理小説二十則(159p・・・簡略化して記述)
1 謎を解くに当たって、読者と探偵と平等の機会を持たねばならない。
2 犯人が探偵自身にたいして当然用いるもの以外のぺてん、あるいはごまかしを、故意に読者に対してもてあそんではならない。
3 物語に恋愛的興味を添えてはならない。
4 探偵自身、あるいは捜査当局の一員が犯人に豹変してはならない。
5 犯人は論理的な推理によって決定されねばならない。
6 推理小説は、そのなかに、探偵が登場しなくてはならない。
7 推理小説は死体が絶対に必要である。
8 犯人の謎は厳密に、自然な方法で解決されねばならない。瓦占い、コックリさん、読心術、降霊術、水晶占い等の禁止。
9 探偵は一人だけでなくてはならぬ。
10 犯人だとする人物は物語の中で、大なり小なり重要な役割を演じた人物でなくてはならない。
11 作者は使用人を犯人として選んではならない。
12 いかに多くの殺人が犯されるにしても、犯人は一人だけでなくてはならない。
13 秘密結社、カモラ党、マフィア党等々は推理小説に持ち込んではならない。
14 殺人の方法とそれを探偵する手段は、合理的で、科学的でなくてはならぬ。
15 問題の真相は、終始一貫して、明白でなくてはならぬ。
16 推理小説には、長たらしい説明の章節、脇道にそれた問題についての文学的饒舌、精緻を極めた性格分析、「雰囲気」の過重視があってはならない。
17 職業的犯罪者に、推理小説中の犯罪の責任を負わせてはならない。
18 推理小説中の犯罪は、おしまいになって、事故死とか自殺になってはならない。
19 推理小説における、すべての犯罪の動機は個人的なものでなくてはならない。
20 自尊心のある推理小説作家ならだれしも、今では使うことをいさぎよしとしない、いくつかの手法のリスト
イ 犯罪の現場に遺棄されていたシガレットのすいさしと、容疑者のふかしている銘柄を比較して、犯人の正体を決定すること
ロ えせ降霊術で犯人をおどし、自供させること。
ハ 偽の指紋
二 替え玉によるアリバイ
ホ 犬が吠えないので、侵入者がなじみの物だと分かる。
ヘ ふたごとか、嫌疑は掛けられているが、無実な人間と瓜二つの近親者を最後に犯人として取り押さえる。
ト 皮下注射や即死をもたらす毒薬
チ 警官が現実に踏み込んだ後での密室殺人
リ 言葉の連想反応実験による犯人の指摘
ヌ 最後になって、探偵が解読する文字または数字による暗号

r991018