創元推理文庫 THE END OF THE NIGHT 吉田 誠一 訳
倒叙型推理小説は、どうやって犯罪を犯し、発覚したかが主題になる。またパット・マガーの作品では、被害者が誰か、加害者が誰か、などが主題になっている。この作品は、男三人と女一人の死刑が執行された。ではなぜ彼らが死刑を執行されることになったのか、犯人の獄中手記、弁護士の覚え書き、執行吏の手紙などによって明らかにして行く。
大学生のカービーは、家を飛び出し、映画監督ジョン・ピネリ夫妻のおかかえ運転手として西部に行くが、妻のキャシーと情事、それが発覚してジョンはキャシーを殺し、自殺してしまう。飛び出したカービーは、麻薬常用のビート族サンダー、モデルをしていた女ナネット、住所不定の怪獣ロバートと合流、サンダーの用意する麻薬の力に物言わせて、いっさいの道徳倫理はもちろん、行為の必然性すら失って、凶悪なサデイスト軍団と化し、全米を強盗、誘拐、暴行などの犯罪を重ねながら渡り歩くようになる。
医者の令嬢ヘレンは、青年実業家ダラスとの結婚を間近に控え、つきあいのあったアーノルドに別れの挨拶に行くが、ここで4人組に見つかり、アーノルドは殺され、ヘレンは誘拐・拉致される。タイルのセールスマンホラスは、意味もなくおそわれ、殺される等々・・・。結局モーテルの女主人の通報で、逃走経路が分かり、当局に網を張られ逮捕される。ついた弁護士の出来の悪かった事もああって4人とも死刑の判決を受ける・・・・。
それぞれの手記、覚え書きなどにおける個人の考え方、感情の変化などの書きわけが非常にうまい。また犯行過程、逮捕過程の具体的描写にもすきがない。
・我々が若い世代と疎通し得ないのは、彼らには根深い倫理体型に基づいた内的思考もなければ、行動規範もないからだという。彼らは、その属するそれぞれの集団において認められている行動様式を基準にして、何度も何度も自分らの掟を調整しようとするのだ。さらに、これは素晴らしいメカニズムであって、このため、善悪の概念などと言う重荷を心に背負っている我々旧世代の者よりも、社会の生存要求をかなえることが出来るのだ。(85P)
・(価値ある人間とは)進んで道を切り開いて行く人間。病みただれたこの社会に抵抗する人間。・・・・(87P)
・性行為は、もっとも純粋な意味において、神聖な行為であり、献身的行為であり、愛の儀式であるべきである。やたらに手から手へと廻された効果は、刻印が磨滅し、刻銘が読めなくなる。(174P)
・第一級殺人は、動機と機会と予謀の三つが含まれる犯意の先行と言うことは、わずか一瞬間の問題でも十分成立する。殺人者に石をつかむだけの十分な理由があれば、予謀の問題は成立しがたくなるだろう。しかし、石を捜して身をかがめ、石を拾ったという事になれば、その間に予謀が成立するわけである。(262P)
・それが意味のない暴力であるがゆえに、生命なるものを、ちっぽけで安っぽいものにかえてしまったのだ。・・・・さらに彼らは愛情をもちっぽけで安っぽいものした。(264P)