夜は千の目を持つ       ウイリアム・アイリッシュ


創元推理文庫 NIGHT HAS A THOUSAND EYES 村上 博基 訳

 星の降る夜、青年刑事ショーンは川に身を投げようとしていた娘ジーンを救った。理由を聞いてみると、彼女の父親ハーラン・リードは、謎の予言者から死の予言をされ、その期日が迫っているのだという。獅子が死をもたらすのだという。
 予言者は、いままでに正確きわまりない予言をした。飛行機が落ちると言う予言、打たなかった電報が届いた話、いつかなくなったジーンの靴のありか、父の秘密口座の番号、その中に隠してある宝石の特色・・・すべてが事実と一致した。
 しかし青年刑事ショーンは、そこに犯罪の臭いをかぎつける。上司マクナマスの指示のもと、獅子の探しだし、予言者の見張り、ハーランの予言期日までの護衛(ショーン)など、警察側は総力をあげて事態の解明に取り組む。犯人のねらいはハーランの遺産をジーンに残させ、ジーンが死んだ場合には予言者が受け取り、自分もおこぼれに預かるという作戦で、予言者の言うことがあたるよう最大限の努力をした。予言者はたんに霊感がひらめいただけ・・・。

 しかし作者は予言がどうして的中したとか、犯人はだれか、アリバイはどうか、証拠はどうか、現実性はどうだとか、そんなことには全く無関心に見える。死が予告され、それが刻一刻迫ってくるという状況下での人間の不安、あせり、いらだちと言うものを文学的に表現し、読者とその恐怖を共有する事を目的として書いているように思われる。
 ウールリッチ節がさえ渡り、文章もダイナミックで、ハラハラドキドキはするのだけれど、何となく納得感がなく、謎は謎として残されたまま終わってしまう、そこがよいという考えもあるが、物足りなさは残ると思う。

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