罪人のおののき        ルース・レンデル


創元推理文庫 A GUILTY THING SURPRISED  成川 裕子 訳

そこは、マイフリー館に富裕で文学に造詣の深いクエンテイン・ナイチンゲールとやさしい心遣いを示す美貌の妻エリザベス、そして近くにはエリザベスの弟でワーズワスの権威デニス・ヴィラーズとその妻ジョージナが住む、平穏な社会。ところがある夜エリザベスが、不可解な深夜の散歩の末、森で殴殺されるという事件が起こった。
遺書が見つかり、エリザベスは財産を庭師のロヴェルに与え、宝石はジョージナに与えるとしていた。しかしその宝石は、いつの間にか偽物にすり替っていた。エリザベスは何に金を使ったのか、ロヴェルと関係があったのか。クエンテインはオペア・ガールのカッチェと関係していた。平和に見えた二人の夫婦関係は実際どうだったのか。エリザベスとデニスは憎みあっているように見えるが、本当はどうなのか。この辺の心理描写、一つ一つ真実を読者に伝えて行くテクニックは作者ならではである。
凶器は、納屋の中にあった懐中電灯と断定された。それなら計画的犯罪ではないようだ。なぜ、デニスとジョージナは事件当夜のアリバイについて嘘の証言を繰り返すのか。なぜ簡単にジョージアは尋問に行くと気絶するのか・・・・。幾重にもからむ複雑な愛憎関係を解き明かしながら、ウエックスフォード警部が事件の核心に迫って行く。
豊富な文学作品からの引用も興味を引く。

・頭蓋破裂、および脳に受けた複数の損傷。鈍器と言うほど鈍くはない金属の何かで、少なくとも十二回は殴られている。(63P)
・ロヴェル夫人も慎みという物を持ち合わせていないらしく、腰を下ろすとただでさえ襟ぐりの深いブラウスの胸元がさらに二インチほど下がり、それと呼応して黒いタイトスカートの裾は膝の上まであがった。(76P)
・計画的殺人、衝動による殺人(112P)
・人が情事と呼び、神が姦淫と呼ぶそれは、暑い国では当たり前のことなのだ(バイロン、152P)
・どれだけ高く舞い上がり、あるいは深く沈むとも、所詮、皆と同じ空気を吸うさだめ(188P)
・女は我々男よりたくましい物だ。男ほど良心がとがめたり、罪悪感にさいなまれたりはしない。(257P)