善意の殺人者           ジェリー・オスター


新潮文庫 SWEET JUSTICE  鎌田 三平訳

ニューヨークの地下鉄で女性に暴行しようとしたチンピラを、乗り合わせた白人男性が射殺した。マスコミは彼を「善意の殺人者」と呼び英雄に仕立てた。
同じ頃、人気はあるが高慢ちきで、追い落とした先輩ジム・ジャイルズにつらく当たっていた女性TVキャスタークリス・カイザーが殺された。売り出し中の女性ベストセラー作家スザナ・キーズが「次はおまえだ。」の殺人予告を受け取ったのち殺された。さらにその友人マーサ・ワインもまた…。
この事件の捜査にニューヨーク市警殺人課警部補ジェイク・ニューマンが若い部長刑事のボビイ・レッドフィールドとともに当たる。
話は殺人事件、警察の捜査活動、それになぜかレイ・ハウエルなるベトナム帰還兵の話を繰り返しながら進んで行く。捜査の進展に連れてベトナムの第4軍第206部隊のメンバーの連続殺人に行き当たる。フェルプスというどうしようもない将校。彼にいじめられ、食事も取らせて貰えないレイ。見て見ぬ振りをする仲間達。当局はこれらすべての事件がお互いに関連があると見た。しかし最後にニューマンはその部隊のメンバーに相棒の名をみつけて愕然とする…・。
ニューマン、レッドフィールド等の活動を通じて描かれる警察の内幕がなかなか面白い。
戦争で受けたいじめに対する復讐劇と、戦争で傷ついた男の社会への復讐劇を組み合わせている所が面白いと思った。ただ推理小説として考えると、警官が犯人の一人らしいことは比較的早い段階で推定されてしまう。ただ作者が描きたかったのは、謎あてではなく、ベトナム戦争が派遣された兵隊達の心に与えた傷跡、帰還した彼らに冷たい社会等にあるようだ。

・ 本を書くべきかもしれんな、だが、誰が読むって言うんだ?中味はおしゃべり、おしゃべり、おしゃべり、おしゃべりばかりなんだから。(200P)
・ あれは勝つとか負けるとか言う事じゃない。生き延びることだった。復帰することが一番大変だったな。いろいろ聞いているだろう。たわごとみたいに聞こえるだろうが、みんな本当のことだ。おれ達はクズみたいに、人殺しみたいに、色情狂みたいに、野蛮人みたいに…負け犬みたいに扱われた。近所の連中や、家族まで、こちらの目を直視するのを避けるんだ。(340P)
・ ちくしょう、あいつらは気取って言うんだ。「言ったじゃないか、この悪たれ坊主目。戦争なんて不道徳で、違法で、憲法違反なんだと教えてやったじゃないか」くそったれめ。憲法違反だと。おれは、敬意を払わなければいけないと教えられた相手の言うとおりにしただけだぜ。(341P)
011022