象は忘れない  アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 ELEPHANNTS CAN REMEMBER 中村 能三 訳

 「ハロウイーンパーテイ」「五匹の子豚」と同様、過去の事件を振り返って、真相を追求する作品。
 女流探偵作家オリヴァは文学者昼食会で突然バートンコックスなる未亡人に話しかけられ「私の息子デズモンドとシリア・レイヴンズクロフト嬢が結婚しようとしている。しかしシリアの父と母は十数年前、夜散歩に出て、翌朝銃で頭を撃ち抜かれて死んでいるのを発見された。どちらがどちらを殺したか、真相を調べて欲しい。」と強引に頼まれ、困った彼女はポアロに相談に来る。
 調べてみると、シリアの父と母は互いに愛し合っていたが、母には精神異常の姉がいた。彼女は妹そっくりで、精神病院から返されていたが、外国で我が子を池に突き落として殺す等異常な面が多かった。父は最初は姉を愛したが、途中から母、つまり妹に変えた。姉は父と母が死ぬ半年ほど前に事故で亡くなっている事などが分かる。

 読者はここで嫉妬に狂った姉が妹を殺し、父が世間体をはばかって姉が死んだように見せかけ、後日殺人者である姉を処刑、自分も自殺したらしい、と容易に推定できる。バートン・コックスがオリヴァに蒸し返さなくても良い話を強引に持ち込んだのは、デズモンドが義理の息子でその信託財産を狙ったから、という筋書き。
 しかしこの過程における語り口はやはり一流で、どうしてそれが起こったかに重点が置かれ、クリステイ最後の作品らしく風格を備えている。証明を飼っていた犬がかみついたことにするくだり、4つのカツラからの推論など細かいところにも神経が行き届いている。

・事件における鎖のかん(192P)

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