創元推理文庫 ALARM! 安堂 信也 訳
「第一部」 カナダで長い里帰りを終えたエリアーヌは、二人の子供をつれてパリに戻った。ところがなぜか夫のアルノーが迎えにきていない。そして友人のダヴィッド・ドレネル、ジュリエット夫妻から思いがけないことを聞かされる。「実はアルノーは自動車事故で骨折、入院したのだが、夜間容態が急変して死亡した、遺体はすでに病院の手で荼毘にふされた」
アルノーの仲間は、シロカツオ鳥というボートを共有するドレネル夫妻、バルノール夫妻、ジェームス、カミーユ、6ヶ月前彼らはクルージングを楽しんだ仲だった。
骨折で容態が急変、死亡というのはどうもおかしいと、ダヴィッドが代表で病院に事情を聞きに行くがが帰ってこない。そして彼からジェームズ宛に不思議な手紙。「今年の夏船に乗った者はみんなやられる。ジュリエットを逃がしてくれ。」そして調査をしていたジェームスが突然、重い病気にかかる。
「第二部」 病院に向かおうとしていたダヴィッドは突然二人の男に呼び止められ、フォン・ベール教授の元に連れて行かれる。監禁されてさんざんテストされた上で、予想もつかぬ真実の一端を告げられる。「シロカツオ鳥号は、今年の夏イギリスの南にあるロンリネス島によった。実は十年前にあの島に様々な動植物をおいた上で、開発したバクテリアの破壊力を検査するために、これを空中散布しました。一年後に島の生物は死に絶え、我々は予想通りの結論が出たと考えました。しかし予想に反し感染率が何年経っても下がらないのです。そこであの島を立入禁止にし、周囲の海域にはALARM!の標識を浮かべたのですが、あなた方は気がつかなかったのです。病気の潜伏期間は半年、あなたは不思議に問題なかったが、ほかの人は早急に対策をとらねばなりません。」
そして上層部の指示で動いているというアンドレから「ほかの人の行方を早急に、しかも秘密裏に追ってください。潜伏期間内であれば、抗体をうつ事によって助けることが出来ます。」彼らの話を信じたダヴィッドは、ボルドーに逃れたバルノール夫妻を追う。そしてジェームス、カミーユが死亡し、マチュー・バルノールが死の直前であることを知った。ここでマチューに殺してくれ、と頼み込まれ、サビーヌも同意することから銃殺してしまう。遺体を焼却すると、彼は再び病院に連れ戻された。また執拗な検査の末、最後にアンドレが言う。「よかった、あの人たちに接してもあなたは感染しなかった。実は感染してしまうと、今の技術では治すことが出来ないのです。」だまされたと知ってダヴィッドが「警察に訴える。」と息巻くと「そのための担保に、あなたにマチューを撃ち殺してもらったのです。」絶望の彼に、一つだけ小さな幸せが待っていた。ジュリエットの出産である。
262Pのアンドレの「45億のほかの人たちのためなら、二人くらいの犠牲は止むをえないでしょう。」という言葉が妙に印象に残った。背景に危険を省みないむちゃくちゃな実験と、その結果を隠蔽しようとする国家権力があるのだが、この作品はそれらに対する抗議を押さえ込んでいる。そういったものを恐怖として描き、その下で呻吟する人々を描いている。書き方は非常に上手だ。前半で読者に恐怖と謎を投げかけ、後半でその答えを与えている。ただし、その答えは決して満足の行くものではなく、国家権力の恐ろしさはそのままに個人のつかの間の幸せだけで話を終えている!
・二児の母であり自立した女のつもりでいても、彼女の内には侵しがたい領分があって、そこには彼女自身の別の部分がどっかと腰を据えている。それは愛における独占を主張し、あらゆる論理に反して、結婚が重禁固用の拘置所であって、自分の夫であり主人である男を厳重監視下における場所であると思いこむ、頑固なお針子娘的な部分だった。(12p)
・芝居は今や討論会に成り下がっているんだ。・・・・・客は芝居に参加しなければならない。入場料を払っただけじゃ許してもらえない。席を与えられたのをありがたいと思ってそれにふさわしい努力をしなければならない。・・・(38p)
・女は25をすぎると信用できない。例外なく結婚したいと言い出す。それも一生を共にしたいなんて殊勝な心がけじゃなくて、ほんのしばらくつきあって、離婚した女という身分を手に入れるためなのだ。(48p)
・(ゴリラは)本当は見物たちより遥かに利口で、彼らに呼びかけ、予言しているのかも知れなかった。
核戦争がすべてを破壊しつくした後の人間たちの姿のカリカチュアを示しているのかも知れなかった。(87p)
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