ベンスン殺人事件    ヴァン・ダイン

創元推理文庫 THE BENSON MURDER CASE 井上 勇 訳

 作者の処女作だが、探偵ファイロ・ヴァンスの考え方が非常によく出ている。
 事件はウオール街の怪しげな株式仲買人、アルヴィン・ベンスンが自宅居間の椅子に腰掛け、新聞を読んでいる状態で、正面からピストルで撃たれ死亡していたことから始まる。マーカム地方検事は,ベンスンと親しかった若い歌手セント・クレア、その婚約者リーコック大尉、ベンスンの親友ファイヒーなど次々に容疑者にあげるが、ファイロ・ヴァンスは理詰めで片っ端から否定して行く。
 結局犯人は、捜査に協力する風を装い、世間ではしっかり者と見られていた被害者の兄だった。金を借りに言っての断られての犯行だった。
 打ち抜かれた額の高さと、壁の銃弾後から犯人の身長を割り出し、そのような犯罪をするのは心理的に女性ではあり得ないと考えるところが興味を引く。犯人はビルの3階に住んでいるのだが、守衛を使ってアリバイ作りをするところが面白い。奥の居間の時計を見てくれるように頼み、「お寝み」と声をかけ、自室の電気を消し、そっと部屋を抜け出すと言うもの。犯行に使った銃は、薬包をつめて、自室にしまっておくが、薬包が新しく見えたことから証拠になる。

・「人間のあらゆる問題は、板に縛り付けられたモルモットを検査する医者のような、臨床的な冷徹さと、皮肉な侮辱感でもって処理しない限り、心理をつかむことなど出来はしない。」(22p)
・天罰を免れるという秘教的な観念・・・・・(91p)
・居合わせたのは、その婦人じゃなくて、婦人の手袋とハンドバックじゃないか。・・・・僕のズボンはいま洗濯屋に行っている。従って、僕は洗濯屋にいる・・・(95p)
・君の顔は、自分の知らないことは知識ではなく、自分に理解できないことには、説明は存在しないと言う原則に従って動いている。おめでたい考え方さねえ。(122p)
・動機があるからって人に疑いをかけるのは、足が2本あるから他人の細君と駆け落ちすると疑うようなものだ。(125p)
・(人は)自分の個性と本姓からは絶対抜け出せない。あらゆる犯罪は結局は人間の心理の問題に帰するというのは、そこをいうのだ。(127p)
・ゴルフと呼ばれる、どうにも始末に負えぬ熱病を見たまえ。 あれは球を棒きれで孔の中にたたき込むだけのことなのだ。 それを、この遊戯の熱中家たちは、風変わりな服装まで考案して、それを来て遊んでいる。 足の正しい角度だとか・・・。(164p)

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