ダウンタウンシスター   サラ・パレッキー

ハヤカワ・ミステリ文庫 BLOOD SHOT 山本 やよい 訳

「わたしはその臭いを忘れていた。サウスワークスがストライキ中でも、ウイスコンシン製鋼が南京錠をおろしてさびついていても、ベンチレーションからは化学薬品の混じり合ったツンとくる臭いが流れ込んでくる。車のヒーターを消したが、臭気は・・・空気などと呼べる代物ではない・・・シェヴィの窓のわずかな隙間から入り込んで、わたしの目や鼻孔をひりひり刺激した。」

ヴィックは、幼友達のキャロラインから、「母親ルイーザが重い病気であすをも知れぬ身である。彼女が死ぬと私はひとりぼっち、ついては彼女に私を生ませた男が誰であったか探してほしい。」と頼まれる。
調査を勧めるとハンボルト・ケミカル社の公害問題が浮かび上がる。そしてキャロラインを中心とするリサイクル工場建設問題。調査をやめるようにとのいくつかの圧力。キャロライン自身から調査中止指令。しかしその時には調査はもう引けぬところまで来ていた。
そしてキャロラインと共に公害問題に取り組んでいた親友、ナンシーの惨殺事件。脅迫のあと、ヴィック自身も襲われ、沼地に投げ込まれるが、隣家の老人コントレーラスに救われる。

ついにキャロライン、市会議員のアート、ルイーザの隠れた関係、アート、ハンボルト社、町のボス、ドレスバーグなどがからむザクシーズという薬の薬害問題、その保険金請求にからむ詐欺問題が明らかになる。

プロットは、センチメンタル・シカゴとよく似ている。関係者からの事件の依頼、しばらくしてその撤回、巨大な悪の存在、そのいくつかの圧力、主人公の危機、大団円・・・・しかし活劇として良くまとまっている。
また、冒頭にあるようにこの作品の完成までに多くの人の援助をえたようだが、その成果も良く出ている。

・まだ早い時期なのに、湖の小道にはすでに、ピンストライプの背広やパンテイストッキングで仕事に出かける前に何マイルか走ってこようと言う、ジョギング連中の姿があった。見たところT・S・エリオットの詩にあるような「うつろな人間」ばかり、一人一人がウオークマンから流れる音楽という繭にくるまって、無表情な顔で走っている。その孤立ぶりには背筋が寒くなる。私は両手をポケットに深くつっこみ、震えながら、家に戻ることにした。(119P)
・キリスト教徒の偽善 ・・・・・9ヶ月の罰として尼僧たちから割り当てられた骨折り仕事、殺風景な部屋、粗末な食事について、身の毛のよだつような話を持って戻ってきたものだ。  正義の味方を気取る隣人たちにくってかかった母を、私は心の底から誇りに思う。 彼らがルイーザの家の前に押し掛けてきて、卵を投げ、罵声を浴びせた夜のことは、今も覚えている。(57P)