デイミトリオスの棺      エリック・アンブラー

ハヤカワ・ポケット・ミステリ A COFFIN FOR DIMITRIOS  菊池 光 訳

イスタンブールで死体置き場におかれた稀代の悪人デイミトリオスの死体を見たとき、作家の私は、彼について調査してみたくなった。
デイミトリオスはスミルナの金貸し殺しにも、ブルガリアの首相暗殺事件にも、フランスの麻薬密輸事件にも、クロアチア人による暗殺事件にも絡んでいたが、各国の警察を尻目に逃げ回っていた。
1922年、デイミトリオスは、トルコ国民軍に追われたギリシャ難民の中にいたが、生き残ってスミルナで金貸しを殺し、罪を相棒になすりつけて姿を消している。
私はまずスミルナに渡り一応の調査を終える。さらに昔の彼の情婦プレヴェサ、大物スパイグロデック等から情報を得た後パリに向かう。
公式記録にはないこの悪人の横顔が少しずつ明らかになってきた。
調査の途中、ピーターズなる男が陰のようにつきまとい
「あなたの情報と私の情報をあわせれば良い。調査結果を教えてほしい。」と脅す。
パリでピーターズを訪問した私は、彼が、実はデイミトリオスの裏切りによって壊滅した麻薬組織の幹部であったことを確認するが、一方で彼からイスタンブールで見た死体はデイミトリオスではなかったことを知らされる。
彼にたきつけられ、いまはユーラシア信託銀行取締役になっているデイミトリオスから100万フランを強請る。
しかしホテルで待ち伏せていたデイミトリオスと争いになり、ピーターズとデイミトリオスは命を落とす。
スパイ小説、ミステリ小説等どの名前からもはみ出してしまう国際的な小説である。
登場人物同士、作者と読者のだましあいが続き、飽きさせない。

・私は、彼を、死体置き場の一死体としてではなく、一人の人間として、また、一個の孤立した存在、一つの現象としてではなく、崩壊過程にある社会組織の一構成分子としてみた。 (71P)
・もし誰かが自分を完全に理解したら、その人間が怖くなるわ。(86P)
・しかし、善悪という言葉でこの男を説明しようとしても、無駄である。・・・事業的な成功、不成功、損得が新しい神学の基本的要素である(205P)
・私くらいの年になると、一年、一年が短く感じられて、まもなく終点に行き着くのだと考えます。(236P)