創元推理文庫 "FOUND DROWNED" 橋本 福夫 訳
イギリスダレハムの海岸の洞窟で、男の溺死体が発見された。その6週間前、バンジョー引きのフレミング青年が「自殺する」と姿を消していた。服装が一致したことから、人生に絶望しての自殺、と一件は処理された。
しかし死体をチェックした本書の語り手メレデイス医師は、特徴からフレミングではない、と結論、再度調査すると、豪華船ミノネット号でヨーロッパを航海しているフォーダム卿のお手伝いアボットがフレミングの恋人と判明。
ようやく二人を捜し当てると、フレミングは「死体を発見したのは確かに自分である。ただし殺私は殺していない。ただ新しい人物になりたくて自分の着物を着せた。彼は大金をもっていたが、着服した」所持していた書き付けから、死んだ男は、いかがわしい宝石商のダニエルと判明する。
ダニエルは、ミノネット号にフォーダム卿を訪ねた後、行方不明になっている。事情を調査しようと、フォーダム卿の従僕のソーンの足の治療などをして、卿にアプローチする。しかしどうもフォーダム卿は知らないようだ。
ある日ソーンがやってきて告白することに「尊敬するフォーダム卿は完全な人だったが、浮気話を種にダニエルに強請られていた。あの日もそうだ。私は恩を返すのはこのようなときと考え、帰りの船で彼を毒殺し、死体を洞窟に放置した。ダニの様な男を処分したのがいけないのですか。」
最後が「犯人は分かったが、約束で内緒ですます」ところが珍しいが、今の時代をベースに考えるとやはりのんびりした作品。死体をバンジョー引きと間違える検屍は少しひどすぎる気がする。ただ所々に死刑廃止論についての作者の意見が述べられており、興味深い。
・泥棒は良心違反した行動をしているとは思ってはいなくて、単にこの國の法律に違反しているにすぎないと思っているわけだし・・・(9P)
・大衆は、法律とは、主として持たない者たちから、もてる者たちを保護するためのものだという見解にたって、人間の作った法律を蔑視している。(11P)
・仮りに死刑が廃止されたとしたら、借りに絞首台の影が永久に殺人犯人の頭上にのしかからなくなったとしたら、殺人者やミステリーの魅力の半ばは消え去ってしまうだろうよ。(11P)
・それにしても、人間社会の社会道徳場に基礎を脅かすような、全国民に悪影響を及ぼすような行為はいつだって私刑に処していいのではないかと思う。(231p)
・善だの悪だのということは実際には存在しなくて、人間の頭が作り出したものなのだよ。(299p)
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