創元推理文庫・世界短編傑作集3 THE AVENGING CHANCE 中村 能三 訳
名前は違っているが実は「殺意」と同じ作者の短編。
気むずかしい老人の元に「新作のチョコレートを開発したから試食してほしい。」との書状をそえ、チョコレートが送られてきた。
老人は妙な物を送ってきたとベリズフォードに相談すると「ちょうどタバコを止められるかどうか妻と賭をしたが負けてしまった。
チョコレートを買ってやらねばならない。」というので暮れてやる。
ところがベリズフォードが妻と一緒に食べると、中毒になりたくさん食べた妻のほうは死んでしまう。
犯人はベリズフォード。彼は妻の財産が欲しかった。
ニトロベンゼンを合成し、それの入ったチョコレート12粒を用意した。その後、チョコレート会社の名でいつも会う老人に普通のチョコレートを送る。
ベリズフォードはそれをニトロベンゼン入りの物と取り替えて、妻に送り、一緒に食べたもの。彼も中毒になるが、致死量の違いを計算にいれていたのである。
事件は、だれが老人にチョコレートを贈ったのかという点に絞られ、ベリズフォードは捜査の対象外に置かれる。
創元推理文庫 THE POISENED CHOCOLATE CASE 高橋 泰邦 訳
「偶然の審判」の4年後に書かれた同じ作者の、同じ内容の作品。
老人がユーステス、ベリズフォードがベンデイクスになっている。
ただし今回はこの事件をシェリンガムの主催する犯罪研究会の6人が解き、6様の答えを出す趣向になっている。通常の探偵小説では答えが一つで、読者はその答えを強制され、何となく分かった気になるが、これは複数の答えがあり、終わってしかもまだ疑問の残りかねないところが良い。
答え1 送られたチョコレートはユーステス殺害をねらったもので、自分を捨てて新妻の元に走ろうとする夫ユーステスを早めに殺し、財産を得ようとした妻。
誰が利益を得たかを中心に考え、書簡用紙が決め手になった。
答え2 ユーステス殺害が目的。
答え1をだしたチャールズ卿が犯人で、彼は娘とユーステス卿の結婚に反対していた。
隠れた三角関係から犯人を断定。
答え3 ユーステス卿殺害が目的。実はユーステス卿には隠れた女がいた。その女が嫉妬から殺そうとした。犯人となるべき条件を絞って行った結果たどり着いた。
答え4 ベンデイックス夫人殺害が目的。犯人はベンデイックスで彼は妻と財産目的で結婚したが妻は財産を分けてくれない、その上、彼の会社は資金的に困っていたので、犯行を試みた。
答え5 ベンデイクス夫人殺害が目的。ただし犯人はユーステス。
ベンデイクス夫人はユーステスの女だった。しかし、しつこい夫人にユーステスが飽きてしまったから。心理的視点を中心に答えを出しているが個人的嫉妬も絡んでいるよう。
答え6 ベンデイクス夫人殺害が目的。ユーステスには現在の妻、チャールズ卿の娘、ベンデイクス夫人のほか、古くから第四の女がいた。
女の見方ではユーステスは現在の妻には愛はない、チャールズ卿の娘との結婚は財産目的だが、ベンデイクス夫人にはのぼせている、と言うことでのぞいた。犯人は第五の答えを出した夫人。
最後に犯人らしい夫人が「それをあなたが実証できるかどうか、とてもおぼつかない気がしますわ。」と開き直り、去って行くところが印象的。
* ニトロベンゼン
* 致死量とそれ以下の利用