ハヤカワ・ミステリ文庫 A DRUM OF POISON 小笠原 豊樹 訳
詩を教えている初老の教師ケネス・ギブソンは、長い間わずらっていた恩師の葬式で、看病に疲れ今にも死にそうにさえ見える娘のローズマリーを認める。
彼は、それまで女を知らなかった。
「あの娘を助けてやらなければならない。」と考え、何かと援助してやる。そして娘が、元気を回復すると、結婚してしまう。
友人の化学者ポールのコテイジを借りて住むようになる。
しかし自動車事故・・・・ケネスは、しばらくは病院生活。家には独身の妹のエセルに来てもらうようにする。
やがて退院するが、エセルは、そのまま居つき、彼女の強い、独立独歩の強い生活とあいまって、家庭は、妙な雰囲気になってくる。
二人の女に挟まれ、しかもローズマリーが、ポールと恋仲になっていると思いこみ、自虐的になったケネスは、自殺しようと考える。ポールの実験室にある一番強い毒薬を、オリーブ油の小壜にいれて盗み出す。
ところが、それをどこかでなくしてしまう。
さあ、大変!と今度は自殺のことは忘れて、ローズマリー、ポールと共に警察、バスの運転手、乗客と小壜を探して次々と訪ねる。
みな善人で協力してくれたため、どんどん増えて最後は7、8人。
昔読んだ「大きなかぶら」の話を思わせるような書きぶりである。
しかしこのメンバーが、ケネスの心の問題を語り合うところが、この物語のポイントになっている。
最後に毒薬は我が家にあって、それでまさにスパゲッテイを作り食べようとしたところで発見され、めでたし、めでたし。
ケネスとローズマリーは、改めて結ばれるという筋書きである。登場人物がみな善人で、ごく普通の精神を持つ人間でありながら、推理小説的になっている面白い作品。
「欲望という名の電車」「熱いトタン屋根の上の猫」などを連想させる心理劇である。登場人物の性格も非常によくかき分けられていて面白い。
・あたたかくしてくれ。ごはんをくれ。私に安定した生活をくれ・・・・それが氷山の隠れた部分なのか?私たちの氷山のすべてなのか。・・・・私たちの一生はいつも、永遠に、余儀なきことの連続なのか。(126P)
・「大きな跳躍はすべて驚きであり、啓示である。」と画家は抗議した。「それは古き物に引いた切線である。ペニシリン、核分裂。それらのものの出現を、果たして何人が予言したかね。」(244P)
・だって人間はあしたの朝までに、常識よりももっといい何かを発見するんですものね。(245P)
・何よりも大切なことは、どれだけの楽しみを共にするかってことです。 ・・・・・お互いに一緒に居ることを楽しむという、それだけのことをいいたいんです。(267P)
r990323