二人の妻を持つ男       パトリック・クエンテイン


創元推理文庫  THE MAN WITH TWO WIVES 大久保 康雄 訳


ビルは小説家くずれながら、C.J出版社社長の長女カリンガム・ベッシイを嫁にもらい、高級社員としてそれなりの生活を送っていたが、偶然、自分を捨てて出ていき、今は落ちぶれた最初のいとしい妻アンジェリカに出会う。
彼は援助の手をさしのべようとするが、ぐうたらな作家志望の男ジェーミイがいたために、かたくなに断る。
一方ジェーミーはこれを機会に強引にカリンガム家に入り込み、持ち前の如才なさで周囲を魅了し、次女のダフネをねらう。

しかし、ビルにアンジェリカが無心に来たその晩、ジェーミーが何者かにアンジェリカの銃で撃ち殺されてしまう。
身内の不祥事をおそれたC.Jは殺人容疑のかかりそうなダフネがビルと一緒にいたと偽証させ、事件をもみ消そうとする。
嫌疑はアンジェリカにかかる。
自分が真実を証言すればアンジェリカは救われるが、今の地位と名誉を失う・・・・ビルは悩む。

しかし、最後に嘘をつくことに耐えられなくなり、真実を証言し、C.Jのもとを去り自由のみとなる。
アンジェリカを救うために、真犯人探しを始め、親友でベッシイのやっている慈善事業団体につとめるポールの使い込みを発見する。

ジェーミーが真実を知り、ポールを強請り、返り討ちにあったとはげしく追求する。
しかし、ポールは使いこみはみとめたものの、「慈善事業団体の不正がばれ、一族の名誉が傷つけられることを恐れたベッシイの犯行だ。」と叫ぶ・・・・・。

大したトリックがあるわけではないが、この作品は1955年の発表と同時に最大級の賛辞でを持って迎えられたという。

魅力はごく平凡な主人公の魅力ではないかと思う。主人公がおちぶれた元の妻を発見し、同情し、決断のつかぬまま、ジェーミーのカリンガム家への入りこみを許してしまう、ベッシーとの愛を大切だと認識しながらアンジェリカのことがひっかかる・・・・そういった常識的な男なら持つであろう悩みを丁寧に描いているところが共感を呼ぶ。好きな作品である。

・私が築き上げた嘘の殿堂は、あまりにもがっちりしすぎているがために、これを取り壊す事もできない羽目に立ち至ったのである。(286p)
・告白は決して絶対の物ではない。自己認識の始まりにすぎないのである。(313p)
・暖房機がついていなかったために死後経過時間に狂いが生じた。(325p)
・寄付金詐欺の手口(361p)