グリーン家殺人事件    ヴァン・ダイン

創元推理文庫 THE GREENE MURDER CASE 井上 勇 訳

 11月9日火曜日、ファイロ・ヴァンスがマーカム検事と四方山話をしているところに旧知のチェスター・グリーンが相談にやってきた。ニューヨーク53番街の東のはずれに建つ広大なグリーン家、彼はそこの長男である。一家は寝たきりのグリーン夫人、娘のジュリア、シベラ、アダ、息子のチェスター、レックスである。昨夜、同家に強盗が入ったらしく、ジュリアが撃たれ、アダが負傷した!犯人を捕まえて欲しい。
早速調べると、賊は玄関から入ったらしいのだが、鍵は?、犯行当時ジュリアとアダの部屋には灯りがついていたが、スイッチは本棚の影の見えにくい所についている、ジュリアは正面から至近距離で撃たれ、アダは後ろから肩胛骨の上を撃たれている、チェスターの32口径銃がいつの間にか無くなっている、など奇妙な点が多い。シベラによれば一家の雰囲気もばらばらで決して良かったとは言えず、何かあの家にはあるようだ。
木曜日、チェスターが何者かに自室で至近距離で撃たれ死亡する。ヒステリー気味のシベラは、アダがグリーン家の者でないことを告げる。三人を撃った弾丸はいづれも32口径であることがわかった。料理女のフラウ・マンハイムはアダをかばっている様子。表の通路に足跡があったが、ヴァンスは内部犯行説を考えはじめ、観察をしつこく続ける。翌週あるいは犯人と考えられたレックスが、真っ昼間正面から撃たれて死亡した。
 遺産の問題ではとも考えられ、遺言書が開かれるが公正だった。足跡を付けたオーバーシューズが発見され、犯人内部説が濃厚になる。アダは夜半身不随のグリーン夫人が徘徊しているのを見たという。しかし料理女はそれは私かも知れないと主張。そんなおり医師ファン・ブロンの元から盗まれたモルヒネを飲まされて、アダが重傷、ストリキニーネを飲まされたグリーン夫人は帰らぬ人となってしまう。
ヴァンスは言う。「活力だ。この犯罪の底にあるものは、それだ。・・・はかり知れない、ねばり強い、自信満々の活力なんだ。大胆と厚顔無恥とを交えた、この上のない残忍酷薄さ・・・ずうずうしくて飽くことを知らぬ利己心。・・・自らの能力に対する、揺るぎのない自信。これは老人の持っているものではない。この事件にはすみずみまで若さがある。」(364p)
 12月半ば、今は二人になったアダム家のうち、シベラはファン・ブロンと婚約し旅立とうとする。一方アダは、料理女の実の娘と分かる。しかも彼女の実の父親は殺人鬼で、その血が流れており、日頃、苛められたと怨んでいたことも分かった。今や、殺人鬼の餌食になろうとしているのは・・・・。

 最初の事件で、アダムが撃たれたトリックは、使用人が駆けつけたとき窓が開いていたことから解明された。ホームズの『ソア橋』事件と同じで、石の錘の着いた銃で自分を撃つと、銃が窓をつたって雪の中に消えてしまうのである。またレスターの場合は、覗き穴を覗くと自動的に引き金が引かれるというものだった。
 この作品はファイロ・ヴァンスシリーズとしてベンスン殺人事件、カナリヤ殺人事件についで書かれたものである。日本の推理小説界にも大きな影響を与え、浜尾四郎の「殺人鬼」はこれをヒントに書かれたという。また383pの100項目近くの事件の分析表は圧巻である。(1928 40)
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