白墨の男    カトリーヌ・アルレー

創元推理文庫 L'HOMME DE CRAIE 安堂 信也 訳

 3日後に自殺しようと決めた、人生に疲れた売れない女流作家カンタンは、同じ事を考えているヒッチハイク医学生タイランデイエを車に乗せる。「死ぬ前に海を見たい。」という男の言に従い、南に向かうが、途中、男のおばさんの所による。そこには静かな都会では考えられない生活があった。
 虚飾に生きるロシア人カメラマン、パリシェフをスイスに送った後、二人は再び南に向かうが、オヨナックスという小さな町で銀行強盗に出会ってしまう。派手な追跡劇の結果、彼らの内の一人を殺し、事件を解決した二人は、一夜開ければ村の英雄。幸せな感じのうち、43歳のカンタンと22歳のタイランデイエの間には関係が出来てしまう。
 ようように、そこを逃げだし、パラリンピックの選手を競技場に送るうち、次第にカンタンはこの青年と生きたいという希望がわいてくる。そしてカンヌ。やはりヒッチハイクの若い女流映画監督ワリックをのせたところ、医学生はそちらに夢中になった様子。傷心の、しかし、死ぬことだけは思いとどまったカンタンは、若い二人に送られて空港に向かう。しかし最後にタイランデイエが「これからは俺はあんたのために生きたいんだ。」とカンタンを抱き寄せる。
 カンタンはアルレー自身を書いたものらしく、彼女の考え方がはっきりでていて面白い。個人的には「わらの女」以上かも知れないと思う。

・民主主義ってのは自由主義を口実にして、みんなが責任逃れをすることさ。(28p)
・(自殺の後)彼女のいない最初の夕食会で、控えめながら裁判が始まるに決まっている。たとえばはじめはこんな注釈が交わされるだろう。「結局イリスは何が不満だったのかな。」・・・・・(38p)
・人はもう弁解したり、自分を正当化するためだけしゃべるんだ。言葉は物々交換の品物になってしまった。何かをしゃべるのは、それと交換に何かを手に入れるためだ。(66p)
・いや、俺は、まあ逆戻りって所かな。もう一度子宮に帰る。精子になって。あのころが一番良かったんだから。(71p)
・他人が頼りになるのは、相手が君を必要としている間で、君が相手を必要としている時じゃないんだ。(73p)
・卵の中のひよこみたいに自分の殻の中に閉じこもっている限り、くちばしでつつき回っても、自分を苦しめる役にしか立たないよ。勇気を出して、殻を破って卵の外の世界に飛び出してみて、はじめて世界がひよこより重要だって事が分かるのさ。(147p)
・時間を無駄にしまいと思うと、生活を台無しにしてでも、すぎて行く時間の後を息を切らせて追いかけることになる。そうしてあっと言う間に六十か七十になる。(183p)

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