はなれわざ          クリスチアナ・ブランド


ハヤカワ・ミステリ  TOUR DE FORCE 宇野 利泰 訳

はるばるロンドンから60人あまりのイタリア一周観光ツアーがトスカナ海岸に近いサン・ホアン・エル・ピラータ島にやってきた。
この島は海賊と密輸業者の根拠地として知られると共に治外法権に近いものを持っていた。
ほとんどが寺院観光に出かける中、新進女流作家ルーヴァン、高級衣装店デザイナーセシル、右腕を失ったピアニストレオ、その妻ヘレン、金持ちの独身女トラップ、案内役フェルナンド、それにコックリル警部は孤独の女ヴァンダ・レインの飛び込み雄姿を見物した後、午後の一時を海辺で過ごした。

夕方ヴァンダ・レインが自室で刺殺されているのが見つかった。

調査が進むうちヴァンダレインとルーヴァンは双子で、ヴァンダ・レインの著作をルーヴァン名義で売り出していたことが分かった。
焦点はコックリルが見ている浜辺からどうやってヴァンダ・レインの部屋に行ったかだが、
(1)沖合にいたフェルナンドあるいはセシルが潜水服に身を包み海の中を潜った。
(2)テントから足だけ見せていたレオ、あるいはヘレンが戻った。
(3)ルーヴァンがヴァンダ・レインを飛び込み以前に殺し、ヴァンダレインになりすまして飛び込み、二重に着た水着を脱ぎ、髪型を変えて、ルーヴァンに戻った。
などの推理が出されるが決め手がない。 最後にレオが沖にでて自殺したらしいとのこと、事件はレオがルーヴァン、ヴァンダ・レイン双方と恋愛関係に落ちたが、ヴァンダ・レインに強請られたため殺したと解釈された。

しかし空港で、一室に通された一行はレオを発見、レオはルーヴァンに「ぼくに触れんでくれ。ヴァンダ・レイン!」と叫ぶ。

実はヴァンダ・レインはジャンプを見せた後、レオを争って、ルーヴァンを部屋で殺した後、ルーヴァンになりすましていたものだった。

こうした旅行物は「チャーリー・チャンの活躍」などもそうだが、形を変えた孤島殺人物といえ、被害者と犯人が限定されている。それだけに推理性が高く面白い。この作品も水着を二重に着る、死者との入れ替わり、サングラスによる錯覚、右利き殺人に見えるが左利きが後ろから刺した、刺殺と心臓の位置、血痕からの刺殺方向の推定、恐喝ノートブックの作成など大小とりまぜて技術やトリックが楽しめるようになっている。


・地中海では汐が変わるって事はありませんもの(156p)
・最初にとりあえずあらすじだけを決めてしまうのよ。そうすると、あとはそれを、前もって決まっている(与件)に適合させるだけで、物語はすらすらできあがっていった物だわ。今度の場合、あらすじでいうと、わたしが、ヴァンダに生き写しだという事、ヴァンダそっくりのまねが出来ること。それに適合させる(与件)のほうは、ホテルの構造、動作のタイミング・・・・・。(255p)