創元推理文庫 ASHENDEN 龍口 直太郎 訳
第一次大戦勃発当時、英国諜報機関R大佐にたのまれて、作家アシェンデンは、諜報活動に従事することになった。
中立国スイスを根城に英国、ドイツ、フランス、ロシアの各国スパイと争って、秘密情報蒐集につとめるのだが、うまくやっても表に出ることなく、失敗すれば死だけが待っている非情な任務だ。
しかも本来のスパイ活動は、小説のように結論がでるとは限らず、組織の中で歯車としての部分の任務を全うし続けるにすぎない場合が大半だ。
この書はそのような面をとらえ、その活動をエピソードをつずる様に描いた作品。結論がでず 食いたりぬ面もあるように思うがそこは読者の想像に任せるというのだろう。
・「危険手当をよこせ、さもないとスイス警察におまえがスパイ活動をしていることを訴える。」とすごむ部下への対応。
・同様に現地に行かず、頭で考えて報告書を書いてくる部下への対応。
・ドイツスパイミス・ヒギンスの二人の娘に使える家庭教師キング老嬢の死の話。
・毛なしのメキシコ人と組んでブルガリアから潜入する予定のスパイを阻止する予定だったが、間違ってあかの他人を殺してしまった話。
・インドの志士チャンドラ・ラルを情婦のスペイン踊り子を使って中立国スイスに呼び寄せる。さらにそこから手紙を書かせ、フランス領にこさせて殺そうとするが、志士が自殺してしまった話。
・売国奴をだましてフランスに行かせそこで逮捕、銃殺させた話。
・ロシアがドイツと単独講和せぬよう働きかけるため、ペテルスブルグに行き、昔の恋人アナスターシアに出会う話。その際同行したアメリカ人が状況をわきまえず暴徒の流れ弾に当たって死んだ話。
・もしあなたの殺人がお考えのように巧妙なものであるとすれば、下手人の罪を証明するただ一つの方法は、殺人の動機を発見することですね。(108P)
・おえら方っていうのは・・・・・人のやったことは喜んで利用するのだが、それをやった責任は誰かに転嫁するって訳なんだ。(301P)
・現実の出来事は、概して物語の発端よりずっと前から、とりとめのないスタートを切り、筋道の立たぬままだらだらと続き、やがてきりのつかない尻尾をいくつかぶらさげたまま、
問題の中心とは何らの関係もない結末に導いて行く。(366Pあとがき)