ハヤカワ文庫 H.M.S.ULYSEES 村上 博基 訳
1943年初等、援ソ物資を積んだ輸送船団がムルマンスクを目指すことになった。
これを守るべく、航空母艦4隻を含む13隻の護送船団が、英国北端スカバ・フローを後にした。
そのうちのユリシーズ号は、5500トンの軽巡洋艦、全長550フィートの細身で高速、小型ながら強力、それでいて耐久力のある軍艦だったが、先の2度の航海で病の床にあるヴァレリー船長以下700名余りの乗員は、疲弊仕切っていた。
厳寒の海に猛威を振るう悪天候は、輸送船団と落ち合う以前から脱落者を出してしまった。
アイスランド沖の合同後は、悪天候に加え、Uボートをはじめとするナチスドイツ軍の攻撃。
味方は次々と海の藻屑と消え、あるいは出発地点に戻ることを余儀なくされた。
さらにドイツ軍はムルマンスク近くになるとフォッケウルフ等を投入、空からの攻撃も強化された。
結局、被弾を繰り返し、レーダーも殆どの高射砲も失い、船内は死人の山と化し、瀬戸際まで追いつめられたユリシーズ号は目的地間近で沈んだ。
目的地に到達した艦船は33隻のうち、わずか7隻であった。
この物語はこうした動きの中、生と死をかけたユリシーズ号の男たちのむき出しの自我がぶつかり、限界へ挑戦する様と戦争の悲惨さをくどいほど丁寧に、時間を追って描いた男の物語である。
しかしこの作戦も本当のねらいは偽装の輸送船団と護送船団を仕立て、Uボートの攻撃にさらして見せ、ドイツの新鋭戦艦テイルピッツをおびき出す目的があったと言うのだから驚く。
重いが、大変興味ある海洋冒険小説であった。
・もっと広い国民的憎悪感情や、王と祖国の大切にはぐくまれてきた神話、 そんなものは、人間が希望と忍耐の最後の境界に立たされたときにはまったくの無であり、
無以下の物である。なぜなら、人の最後の境界を越えて動かす物は、 原始的な、単純な人間感情、愛とか悲しみとか、憐れみとか苦しみといった、
明瞭直截な感情だけだからである。(331P)