完全殺人事件
完全殺人事件 クリストファー・ブッシュ
新潮文庫 宇野 利泰 訳
アリバイ崩し推理小説の代表作。
メアリアスなる者から、当局に
「10月11日の夜、ロンドン郊外、テムズ河北岸地区で殺人を行います。」
と2度に渡る犯罪予告文書。
その予告の通り、トーマス・リッチレイ老が自室で刺殺された。
トーマス老は、当日は女中のアダムズと一緒だったが、彼女は直前に届けられた不振な荷物のため、2階におり、気がつかなかった。
トーマス老は、莫大な資産を有し、死後は4人の甥が、遺産を相続する予定だったが、最近、家政婦のカードン夫人と恋仲になり、全財産を彼女に譲るという遺言書を書く予定といわれていた。
4人の甥にはそれぞれにアリバイがあったが、中でも教師をしているフランクは、フランスで絵を描いていたという。
事件を警視庁と連絡を取りながら、デユランゴ商事ルドヴィック・トラヴァーズ社長のもとのジョン・フランクリンが追跡する。
捜査を勧めるうち、フランクが最近映画会社が新作宣伝のためと称し、そっくりさんを募集したジーン・ケリーに似ていることに気がつく。
応募者から合格者フレデリック・プライスを探し当てるが、時すでにおそく、彼は恋人の元から消えていた。
しかし、フランクがホテルでプライスを替え玉に使い、アリバイをでっちあげ、犯行に及んだと推定し、証拠を固め、フランス南部のポルケロール島においつめる。
事件追及の記述がちょっとわかりにくく、冗漫な感じもするが、50年前に書かれた事を前提に考えればオーソドックスな推理小説といえよう。
遺産相続と言うことなら、カードン夫人への追求がもう少しあっても良いような気がした。
余生が後少ししかない男が最後に殺人を考えるという点ではアントニー・バークリーの「試行錯誤」を思わせる。
・差し金と紐による密室の構成(90p)
・単語の頭文字をつなげると一つの意味を持つフレーズになる伝言方法(324p)
・奴の気持ちとしては、気に染まぬ仕事であくせくするより、一年数千ポンドの金を派手に使って、三年間を楽しく送りたかったんだろう。つまり奴は一石二鳥をしとめるつもりだった。叔父を殺すと同時に、カードンという女を放り出す。それでおのれは、その後の生涯を富裕に暮らせるし、兄たちの財産も確保してやることができる。(376p)