新潮文庫 CHARLIE MUFFIN 稲葉 明雄 訳
英国諜報部員チャーリー・マフィンは、1年ほど前、ソ連KGBの大物で全ヨーロッパソ連スパイ組織の責任者ベレンコフ将軍を捕らえ、そのスパイ網に打撃を与えたプロである。
その彼は若い同僚スネア、ハリンと東ドイツに潜入したが、帰途、若い二人に危うくだまされ、東側の銃に撃たれるところだった。
彼は新任部長カスバートスン郷に嫌われ、ベレンコフ尋問にさいしての非難は退けたものの、降格され干されてしまう。
折りから、やはりKGBの大物でベレンコフの無二の親友カレーニン将軍が西側に亡命する計画があるらしい、との情報が入る。
カスバートスン郷は手柄を英国諜報部で得ようとスネアとハリスンを東側に潜入させ、カレーニン将軍と連絡を取らせようとする。
しかし、素人同然の彼ら、ハリスンは殺され、スネアは捕らえられる。
カスバートスン郷に再調査を依頼されたマフィンは、モスクワで将軍に接触、亡命計画を打ち合わせ、あわせてスネアとハリスンが米国CIAによって売られた事を知る。
亡命の手助けはCIAと英国情報部が共同で行うことになり、ウイーンに基地が作られ、実際に亡命を行うチェコとウイーンの間には厳重な監視網が作られた。
カスバートスンの命により、マフィンが先導してカレーニンが亡命、ウイーンの基地に到着するが、マフィンは金と共に消えてしまう。
将軍が亡命して来て、大喜びのカスバートスン郷と米CIA長官ラドガーズだったが、カレーニンの発言に驚く。
「この基地も、君たちが用意した監視網の要員もすべて我が方に捕まったよ。
それでも君たちの命がなくなるというわけではない。
ベレンコフ将軍との引き替えで国に戻れるだろうよ。
もっとも名誉はなくなるがね。マフィンは優秀だ。金は彼のものだ。君たちは追いかけるだろうけれど、捕まるわけはないよ」
スパイ小説だが、サラリーマン小説のようでもあり、マフィンの物事に対する裏の裏を読んだきびしい考え方が興味を引く。
・オーストリアという国は東西を結ぶ橋だ。
カレーニン級の大物が自国の領土内を通過することを前もって知ったら、震え上がってしまうだろう。
そりゃ確かに国連へ泣き言を言っていくかも知れないし、我々両国の政府は領土侵犯と言うことで陳謝の形式を取らなくてはなるまい。
しかし内実は、モスクワとの関係を損なわずにすむわけだから、つんぼさじきにおいた我々の処置を大喜びすると思うね。(207P)
・カレーニンは・・・自信たっぷりに見えた。
自信過剰と言っても良かった。人はうぬぼれによってすべてを滅ぼすことがある。
チャーリーはそう思って心配になった。(239p)
・人間って奴は、自分が軽蔑している相手を疑ったりしないものだ。(295p)