ハヤカワ・ミステリ文庫 WHIP HAND 菊地 光 訳
「大穴」で活躍した片腕の敏腕調査員シド・ハーレーが活躍する。
最初に4カ所から種々の調査依頼が舞い込むが、二つの事件に集約される。
第一は分かれた妻ジェニーが、信頼した男の提案で慈善事業に名を借りたワックスの販売を始めるが、男は金を持って消える。
しかしシッドは犯人が、熱気球きちがいのジョン・ヴァイキングの知り合いであることを突き止める。
競馬場の保安部長ルーカス・ウエインライト、友人の調教師キャスパー等からの依頼は、最近絶対とも言える本命馬が、次々にレースに惨敗して行き、そのレース生命をたたれて行く、実態を調べて欲しいと言うものだった。
調べを進めると、悪玉馬主のトレヴァー・デイーンズゲイト、ピーター・ラミリーズ等が次々にシッドを襲う。
その脱走過程で彼はジョンの熱気球に乗り込むところが面白い。
結局ワックス販売の男はジョンの従兄弟で逮捕される。
一方、馬は死の原因が、心臓が弱ったことであることから、獣医からのつてで調査を進め、豚丹毒の菌を注射されていたことを突き止める。
豚丹毒は通常は豚しかかからない病気で心臓に突起ができ、やがて心臓障害を起こす。
この変種が馬でも発生することが分かり、デイーンズゲイトの弟の働いている研究室で研究されていた。菌の注射はパッドのようなもので軽く馬の尻をたたくだけで簡単にできるのだ。
こうして直接の犯人は分かったが、操っていたのは誰だ、と考えたとき、実は彼に調査を依頼したウエインライトが浮かび上がってきた。
デイックフランシスの競馬シリーズを私が読むのは大穴に続いて2冊目だ。改めて作者が現役ジョッキーながら物語を作るうまさを持っていることに驚かされる。また義手を使わなければならないシッドの心情が良く描かれている。
・最初の怪我が治ってまもなく、食物を人に切ってもらわなければならず、それを頼むときに顔が真っ赤になったが、、それを経験するまでは私自身も気がつかなかった。それ以後、人に頼むくらいなら食べない方がましだと思って、空腹に耐えたことが何回かあった。電動義手をつけて依頼、頼む必要が全くなくなったことは、霊魂を救われるのにも似た心の心理的開放であった。(195p)