ハヤカワ・ミステリ文庫 FRIDAY THE RABBI SLEPT LATE 高橋 泰邦 訳
ボストン近郊のバーナーズ・クロッシングのユダヤ人社会、新任の若いラビ、デイビッドは、タルムードに乗っ取ってもめ事を処理するなど、頭は良かったが、学級肌で人気はイマイチだった。
理事会では、引き続き彼にラビを頼むかどうか、でもめていた。
そんなおり、レストラン経営者セラフィノの子守エリスペスが、絞殺死体となって発見された。
彼女はダンスも一度行っただけ、友達と言えばシーリアしかいない、地味な、身持ちの堅い女性として通っていた。
しかし解剖の結果、彼女は妊娠していた。
まずハンドバッグがラビの車の後部座席に落ちていたことから、ラビ自身が疑われるが、人柄からそのような事は考えられそうにない。
次ぎに信徒会理事ベッカーの息子ブロンスタインが、その夜被害者と一緒にいたことから疑われる。
しかしラビは、後部座席に落ちていた煙草の吸い殻とハンドバッグから犯行場所が車の中であることを見破り、当日車を運転していたブロンスタインの犯行でないことを見破る。
さらに被害者の部屋にあったラジオに注目し、被害者がブロンスタインと分かれた後、ラジオのニュースを聞いてある時刻に間に合うよう、急に飛び出したと推定する。
そしてちょうどその時刻に巡回に当たる警官ノーマンを犯人と断定する。
非常に洒落た作品である。
ストーリー自体は「失踪当時服装は」を思い起こさせたが、ラビを中心とするボストン近郊のユダヤ人社会が集会、理事会、人々の暮らしぶりなどを中心に生き生きと、描かれていることが特色になっている。
またユダヤ教とキリスト教の考え方の対比も面白い。
推理そのものよりも社会の動きにの記述に重点を置いた作品。
・我々の歴史でも、時々、死後の生存という思想が突然現れたことがありますが、その場合でも、その見方は我々独自の者でした。死後の生存とは、我々にとっては、自分の子供達の中に、死後も生き続ける影響力の中に、そして人々が持っている我々の思い出の中に、生き続ける我々の生命の一部、という意味なのです。(179P)
・家内は十年ほど前に病気になって、それでかえってわたしたちは普通の夫婦より隔たりが無くなりました。(208P)
・大統領になろうよりはむしろ正論を通したいと言ったのは、ユダヤ人だったに違いない。アイルランド人はそんな風には考えない。えらばれなければ何もできないことを知っていますからね。(233P)