黄金虫(ポオ小説全集4)    エドガー・アラン・ポー


創元推理文庫

黄金虫 THE GOLD-BUG
 私は、南カロライナ州のチャールストンに近い小島で、召使いのジュピターと隠遁生活をしているルグラン君をたずねた。彼は、珍しい金色の甲虫を見つけ、帰り道友人に預けた。そして戻ってから、ストーブのそばで、甲虫をくるんでいた羊皮紙に「こんな形をしている。」と書いて説明してくれた。ところが途中から彼の様子がおかしくなった。そしてしばらくは部屋にこもりっきり。ジュピターは主人が気がふれたのでは無いかとさえ考えた。
 一月くらい立ってから、彼の要請で、夜陰に私たちは近くの山の中に分け入った。ジュピターがルグラン君の言う大きな木に昇り、くくりつけられていた髑髏を発見。その目の中に甲虫を通して地に落とし、そこから50フィートほど離れたところで大きな穴を掘った。すると大きな鉄の箱、あけるとなんと膨大な宝物。海賊が埋めたものだった。実はあの羊皮紙はあぶり出しになっていて、宝の在処を暗号で示してあったのだ。
 暗号解読法はたとえば一番出現頻度の高い記号がeと言うように当てはめて行くもので初歩的。これに地形的な要素が加わっていた。話は現在では単純だが、暗号解きの初期のものとしては十分評価出来る。
黒猫   THE BLACK CAT
 私と妻は動物好きだった。小鳥、金魚、立派な犬、兎、小猿、そしてプルートという大きな一匹の黒猫。しかし私はだんだん酒に溺れて怒るようになり、その怒りを動物たちにぶつけるようになった。ついにはプルートにも。ある時酔ってプルートを叱ったとき、かみつかれたので、怒りにまかせてその目をえぐり取ってしまった。それでも酒癖は止まず、今度は何の理由もなくプルートを縛り首にしたところ、突然火事。プルートは焼け落ちた家の漆喰壁にくっついていた。
 その後酒場で同じような大きな片目の黒猫を見つけ、すり寄ってくるので連れ帰った。妻は可愛がったが、私はだんだん疎ましくなった。ある時とうとう我慢が出来なくなり、黒猫を地下室に連れて行って殺そうとしたところ、妻が止めに入った。私は斧で思わず妻をたたき殺してしまった。夢中になって死体を地下の壁の中に埋め込んだ。
妻が失踪と知って、警察官たちがやってきた。地下室。「どうです。何もないでしょう。」と杖で壁をたたくとくぐもったような声。気がつくと彼らは壁を壊していた。妻の死体とその上にあの黒猫。私は夢中になって黒猫も生きたまま壁に塗り込めていたのだ。
長方形の箱 THE OBLONG BOX
私は数年前インデイペンダンス号に乗ってサウス・カロライナのチャールストンからニューヨークに向かった。私の友人で画家のコーネリウス・ワイアットとその新妻、二人の妹と乗り合わせた。ところがコーネリウスは自室に長方形の箱を持ち込んでいる。しかも新妻は不美人でおしゃべり、時々夜間に抜け出し、明らかに夫とうまく行かぬ様子。そんなとき様子を見ていると彼は密かに箱を開け、忍び泣きしている様子。私はあの箱には絵が入っていると考えたのだが・・・・。
途中で船が嵐にあい、沈没する事になり、私たちは救命ボートに乗って逃げ出した。ところがコーネリウスは「あの箱を持って行く。」と言いだし、突然ボートから船に戻ってしまった。ボートは船を離れてしまった。箱をもって引き返した彼はその箱を自身に結わえ付け海に飛び込んでしまった。
船長の話「奥さんが亡くなったんですよ。それであの箱に塩と一緒に詰めて運ぼうとしたんですがね。」
「おまえが犯人だ」    "Thou Art the Man"
 バーナバスと言う男が馬に乗って**市に行ったが、馬だけが2時間後に帰ってきた。「オールドチャーリー」が水溜まりの捜査を命ずるなどして親切に、キリスト教的にふるまった。そしてベニフェザー氏のビロードのチョッキ、ナイフ、ハンカチさらに馬から氏の銃から出たと思われる弾丸が見つかり、疑いは彼にかかった。
 しかし親睦会のおり、酒樽から飛び出たのはバーナバスのほとんど腐りかけた死体。死体は「オールドチャーリー」をさし、「おまえが犯人だ」と一喝。実は私は馬からでた弾丸のインチキを見破っていた。当日死体入り酒樽を届させたのは私。あの一喝した大声も私の腹話術だったのさ。
シェヘラザーデの千二夜の物語  THE THOUSAND-AND-SECOND TALE OF SCHEHERAZADE
 千一夜物語を終えてめでたく死刑を免れたシェヘラザーデだが、王様のいびきがうるさくて寝られない。そこでつねって起こして晩年のシンドバッドの旅を話し出す。それは最近の世界や近代文明の原理をベースにした数々の話だったが、王様はくだらないをくり返した。そして「やっぱり、おまえは絞首台に登るが良かろう。」
ミイラとの論争    SOME WORDS WITH A MUMMY
 ポノナー氏から「ほんもののエジプトミイラを見せる。」との連絡で出かける。帰りがけに電気を通したところミイラが生き返った。フランケンシュタインみたい!ところがミイラは悪さをするわけではなく、「我々の寿命は1000年もある。少し長すぎるので、寿命を定め、ミイラにして生命活動を止めたまでさ。」などと話した後、エジプト文明と近代文明の比較議論を展開する。「ワシントンの国会議事堂を見て下さい。」「ナイルにはそんなものが五十も百も入る建物がある。」「民主主義が素晴らしい」「我々だってやってみたけれど専制主義に陥ったさ。君主はモッブ(暴徒)さ。」という具合。
僕の家内は口やかましい。僕は人生と十九世紀全体が、しみじみいやになっている。髭を剃ってコーヒーを一杯飲んだらすぐ、二百年ばかりミイラにしてもらおう。
天邪鬼     THE LUMP OF THE PERVERSE
 我々にとってある行為が悪であり、罪であると言う確信自身がかえってその行為を加速することがある。七、八年前、私は毒入り蝋燭を使ってある男を殺し、その財産を引き継いだ。発覚のおそれはなかった。しかし私の内なる天の邪鬼精神はある時、私をして、犯罪を告白しながら往来を走り抜ける行為をやらせてしまった・・・・・。
盗まれた手紙 THE PURLOINED LETTER
 私と友人のオーギュスト・デユパンがくつろいでいると警視総監のG**が相談を持ち込んできた。「ある高貴な夫人から、「大臣のD**にある重要な手紙を盗まれた。その手紙のお陰でひどい目にあっている。取り返して欲しい。」と頼まれた。大臣のいない間に屋敷に入り込み徹底的に捜したのだが、見つからない。何とか助けて欲しい。」ところがデユパンの答えは「探し方が悪いんだよ。」10日ばかり経って総監が「やっぱりみつからない。」と言う。
 デユパンは「5000フラン払ったら、教えてやる。」総監が渋々小切手を切ると小箱から例の手紙を出して渡した。
総監が去った後、「ああいう男はただ取りしようとするからね。隠し場所は彼が考えている通常の方法では見つからないところにあったのさ。名刺刺しに、しわくちゃにしてまるで不用の手紙のように突っ込んであった。そこで僕はそれを別のものと入れ替えて持ち出したって訳だ。」
・数学的推理なるものは、形式と数量についての観察に対して適用された論理・・・にすぎないんですからね。いわゆる純粋代数学の真理だって、それが抽象的真理ないし一般的真理だと考えるのは大間違いさ・・・数学の公理というのは、一般的な真理の公理じゃないんだよ。(255P)
Xだらけの社説  X-ING PARAGRAB
 西部へ移住してきた爆弾炸太郎氏は早速新聞を発行して、ジョン氏にかみついた。やり取りの末、彼はおうという言葉の入った悪口社説を書くよう手配したが、活字がなかったため、印刷屋は「う」の字をXで代用した。ありろあらゆる意見が飛び出し、けしからん爆弾氏はいつのまにか消えてしまった。
暗号論 CRYPTOGRAPHY
 スパルタ人が暗号の発明者というのは間違いだが、記録にあらわれたものでは最初である。二つの同じ円筒を送る側、送られる側が持った。ひも状の羊皮紙を巻きつけて文章を書いて送り、送られた側は円筒に、巻きつけて読みとった。最近のものはアルファベットを他のアルファベットや文字で置き換えるものでずらしたり、対応表を使ったりあるいはキイ・フレーズを使ったりする。また窓付き紙を使ったり、本の中の単語を使うものもある。暗号論初期の論文で今から考えるとPRIMITIVEなものが多い。
991005