マギル卿最後の旅   F.W.クロフツ

創元推理文庫  SIR JOHN MAGILLE'S LAST JOURNEY 橋本福夫訳

 ロンドンの富豪マギル卿は、息子マルカムの経営するベルファストの紡績工場へ行くと称し邸をでたまま消息を絶った。北アイルランド警察が調査に当たったところ、港とベルファストの間の高野で血痕のついた帽子が見つかったが、依然として行く先は不明。膨大な遺産は二人の娘、従兄のヴィクターなどに一部が流れるが、大部分は限定相続で息子のマルコスに行くことになっていた。
 要請に応じてロンドン警視庁のフレンチ警部は、ベルファストのアルスター警察を訪ねる。そこにはロンドンで卿に最後にあった後友人と船旅をしていたというヴィクターも来所しており、捜査への協力を約束した。レイニイ署長から「卿はグランドホテルで秘書のブリーンと落ち合うことになっていたが到着していない。しかし目撃者の証言から、ベルファスト市に来たことは確実だ。マルコムは金に困っている様子で彼が犯人ではないか。」と捜査の経過を聞かされた。折りもおり、マルコムの邸のあるリュリガンで深夜男が何か作業をしているのを見た、との手紙が届いた。差出人はX.Y.Z.となっている。早速捜してみると屋敷の庭に、マギル卿が無惨な姿で埋められていた。マルコム逮捕一歩手前だが、帽子の血が卿でもマルコムのものでも無いことからためらわれた。
 解剖の結果マギル卿は、撲殺だが睡眠薬を飲んでいた。そのベルファストまでの足取りを追うと、アーサー・コーツなる不審な男が切符を取ったことが分かった。彼はチャールズ・ジョスなるヴィクターの友人で、マギル卿の持つ紡績方法の新技術に関する図面を狙っていたが失敗に終わったことが分かった。船に乗っていたヴィクターが疑われたが、アリバイがあった上、マギル卿はベルファストに渡っている!別ルートできたブリーンは、卿の妹との結婚を卿に反対されていたことから疑われたがこれも決め手がない。
しかしフレンチ警部の執拗な追跡によりあのX.Y.Zなる差出人の印刷に使われたコロナのタイプライターの発見や列車内での殺害方法、マギル卿へのなりすまし発覚から、次第に犯人グループが追いつめられて行く。いわゆる交通機関の面白さを使ったアリバイくずしで、フレンチ警部の地道な捜査が興味深く書かれている。

著者はアイルランドのダブリン生まれで、この作品の部隊ベルファストで育っている。18歳でベルファスト・ノーザン・カウンテイ鉄道に勤め、10年後に主任技手にまで昇進している。既に「樽」等で名声を博した、50歳の時の作品だが、過去のこうした経験が十分に生かされているようだ。(1929 50)
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