マルタの鷹          ダシール・ハーメット

創元推理文庫 THE MARTESE FALCON 村上 啓夫 訳

サンフランシスコで私立探偵事務所を開くサム・スペイドは、偽名を使う女から、妹の恋人フロイド・サースビーの行動調査を頼まれ、同僚のマイルズ・アーチャーを派遣する。ところがアーチャーが何者かに射殺され、サースビーも死体で見つかった。
翌日レバント人ヨエル・カイロの銃をちらつかせながらの訪問を受ける。申し出は、ある鳥の彫像を見つけてくれれば5000ドル出すという法外なものだった。鳥の彫像とは一体何なのか?
偽名を使っていた女はブリジッド・オーショーネシーと判明した。自分の秘密はあかさず、それでいてカイロを知ると同時に恐れており、スペイドに助けて欲しい様子でしきりに誘惑する。スペイドは、カイロとオーショーネシーが対決させるが、そこにダンデイなど警察官が入って来る。しかし三者は適当に嘘をついて、ごまかしてしまう。
オーショーネシーの話では、カイロにトルコのマルモラで鳥の彫像を盗み出すことを手伝ってくれれば500ドル出すと言われ手助けをした。カイロと別れて後、サースビーから助けてくれれば750ドル出すと言われた。しかしシスコに来ると彼は自分で独り占めを謀る様子だったという。その後彼女が消えた。
スペイド等をつけ回しているチンピラがいた。ウイルマーである。そいつの線から親分のカスパー・ガトマンに面会する。ガトマンの話から鳥はロードス島騎士団がスペイン皇帝に献上したという、マルタの鷹とよばれる途方も無く高価なものと分かった。長いこと追い続けたガトマン等は、さるロシア人富豪から盗みだしたが、行方が分からなくなってしまった。スペイドが所在を知っていることをにおわせると、ガトマンはさらに法外な値段をつけ、譲れと迫り、同時にスペイドを睡眠薬で眠らせてしまった。
カイロの部屋を調べて香港から入船するラ・パロマ号が何やら怪しいことが分かった。そのころ秘書のエデイ・ビラインは港で船が火事にあったことを知る。ウイルマー等の過去が警察の調べから分かるがとんでもない悪党らしい。焼け跡から船長の射殺死体となんとマルタの鷹らしきものが発見される。
オーショーネシーを探した挙げ句、自室に戻ったところ、スペイドは悪党どもに銃をつきつっけられた。悪党どもは10000ドルでマルタの鷹を売れ、とせまる。しかしスペイドは事件を丸く治めるには、殺人犯として犠牲者を一人検察に渡さなければ収まりがつかぬ、と強硬に主張。ついにウイルマーを警察に犯人として渡し、スペイドは手数料をもらって彼等に鷹を渡す事にした。
ところがここからが、スペイドのスペイドたるゆえん。鷹はロシア人富豪が本物と変えておいたらしく、鉛の偽物と分かり、スペイドとオーショーネーを残してギャング団は去る。スペイドはすぐに裏切り、警察に連絡、一味は逮捕される。最後にスペイドは「マイルズを殺したのは実は君だ。」と真相を暴露し、一度は惚れたと見えたオーショーネーを冷たく突き放す。

ずいぶんととんまなギャング団と言うところが不満だが、人物が非常に良く書けている。
スペイドについて「あごは、骨張っていて長く、その先はV字形にとがっており、それよりもっとなだらかではあるが同じようにV字形をした口の下に、突き出ている。鼻の先も、小さいV字形をなして垂れ下がっている。黄味をおびた灰色の目だけは水平だが、同じVの字のモチーフは、鈎鼻の上部にきざまれた一対の縦じわから外側につりあがっている濃いまゆの形にもあらわれており、うす茶色の髪までが…高い平らな両のこめかみから…前額の一点に向かって生えさがっている。その顔つきはなんとなく愉快な、ブロンドの悪魔といった感じだ。」と実に丁寧だ。
この男はその悪魔的なところが魅力的なのかひどくもてる。秘書のエフィー・ビライン、死んだ共同経営者マイルズの妻アイヴァ、それに一方の主人公オーショーネシー。しかし彼自身は格段の名推理をするわけでも、名探偵を気取るわけでなく、人並みに功利的で、やさしいが常にクールにものを見ている。そんな人物像が面白い。
オーショーネシーも面白い役どころ。自分の事のみを考え、口からでまかせに嘘は何度でもつき、女の弱さをことさら利用して生きていこうというずるい女がよく描き出されている。でもこういう女性っているよなあ。
R010214