創元推理文庫 LE TALION 安堂 信也 訳
破産に瀕した青年実業家夫婦ジャンとアガットは、近く5億の大金が入ることになった友人マルセルとその姉マルトを招待した。ジャンは、マルセルからなんとか金を引きだそうとしているのだ。
一方ジャンが裕福であると信じていたマルセルは、アガットの魅力に惹かれていた。アガットの方も、夫ジャンが破産寸前、マルセルは5億の大金が入ると知った。とうとう夜半マルセルと鴨猟に出かけた夫のボートの水抜き栓を、棒砂糖に変えておく。夫が溺死、事故として処理され、めでたくマルセルと結婚することになり、マルタも含めて3人で海岸でのんびりと過ごすことになる。
アガットにのぼせたマルセルは、財産を彼女に与えてしまう。
そうなってみるとアガットにとって新しい夫のマルセルは年取った単なるお荷物。なれぬ銛を振り回しているうちに偶然それが夫の首にあたり、夫は絶命してしまう。しかし事態の推移を冷静に見つめていたマルタは、アガットが事故に見せ掛けて弟を殺した、と考える。そして酔った口論の末でのアガットの真相告白。
今はアガットとマルタの二人だけ冷たい生活、マルタは元気を失い、アガットの勝ちに見えた。ところがある日、マルタが自動車事故で死んだ。ぽかんとしているアガットの前に警官が現れる。「ブレーキオイルパイプが切断されていた。あなたを逮捕する。」マルタは自己を犠牲にして復讐を謀ったのだ。しかしそれを証明できる物はなにもない・・・・・。
4人がそれぞれの立場から手記を事件の進行につれて書くという形で話が進んでゆく。芥川竜之介の「藪の中」では複数の人間が事件を解説する形だが、ここではそれに時間の経過を入れ、各人の考えの変化を伝えるように工夫されている。
・男にとって、理想は、戦死だわ。一遍に英雄になれて、死んでからも勲章を受けて、未亡人や子どもには年金を残して、みんなには尊敬される。
・・・・・もしジャンがヒーレイに乗ってしねば、きっと苦しむ暇はないわ。 ・・・・それに傷害保険にも入っている。(36P)
・私は、自分で作った格言を実行に移すわ。「冷たいこころに冷たい顔」それで結構うまくゆくんだもの。(86P)
・一番大切なのは、幸福に生きることではなくて、幸福に死ぬことだと思える。・・・・アガットを本当に許せないと思うのは・・・・それぞれの死を・・・・それぞれの責任で決めるという自由を奪ってしまった。(200P)
・自動車事故殺人・遅動殺人・複数視点
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