メソポタミア殺人事件    アガサ・クリステイ

新潮文庫  MURDER IN MESOPOTAMIA  蕗沢 忠枝 訳

 テル・ヤリムジャハ遺跡調査団は、レイドナー博士夫妻を中心に10人強。私は最近いらだっている様子のレイドナー夫人を慰めるべく派遣された看護婦。現地に到着してみるとなんとなく緊張した雰囲気。
 レイドナー夫人は、美人だが、かって前夫フレデリック・ボスナーを裏切り、スパイであることを告発し、死に至らしめたらしい人物。その前夫から脅迫状が届き、おびえていることがわかった。それも2度、3度・・・。そして夫人は、ガス事故未遂事件の後、本当に自室で石臼で殴られ、殺されてしまった。
 名探偵ポアロが、調査を開始すると、全員にアリバイがあり、しかも殺人の動機をもっていることがわかり、推理は行き詰まる。そして事件の真相に気がついたらしいミス・ジョンソンが、塩酸を飲まされて殺され、ラヴィニー神父は行方をくらませる。
 しかしポアロの綿密な調査と手紙、屋上、窓といったキーワードが、事件解決の決め手になる。実はボスナーは、生きていて、レイナード博士になりすまし、夫人と再婚し復讐したもの。殺人の方法は屋根の上から声をかけ、首を出したところに紐付きの石臼を落として殺し、回収するというもの。さらに事件の真相に気づいたミス・ジョンソンの飲み水を塩酸といれかえ、凶器を彼女の部屋に放置した・・・・。

しかし20年経過して、顔かたちが変わっていたとはいえ、前夫がわからないと言うのはちょっと無理な気がした。水と間違えて塩酸を飲む、というのも現実にはありそうもないように思える。
ところでこの作品はクリステイ(40歳)が考古学者マックス・マロウワン(20代半ば)と再婚して数年後に書かれたもの、幸せいっぱいだったに違いない。作品はなんとなくそんな感じがでているし、語り手のレザランは彼女を模したものでは・・・などと想像をたくましくした。

・レイナード夫人という女は、本質的には、自己崇拝のナルシス的性格で、権力者であることを、何よりも楽しんだ女性だと、私は信じています。彼女はどこにいようとも、常にその世界の中心でなければ気が済まなかった。・・・・夫人は自分の性格の残酷な面を、いっそう発揮して楽しみました。・・・・しかし・・・これは決して、いわゆる意識した残酷さではないということです。(320P)

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