長く孤独な狙撃        パトリック・ルエル


ハヤカワ・ポケット・ミステリ THE LONG KILL  羽田 詩津子 訳

風光明媚なイングランドの湖水地方、殺し屋ジェイスミスは雇い主ジェイコブの依頼に応じて、1250メートルの長距離から名も知らぬ男をねらったが失敗した。
歳をとって目が悪くなった性だと考えた彼は、引退を決意し、近くの老婆ミュリエル・ウイルソンの家の購入を検討する。しかし、間に入った弁護士ステイーブン・ブライアントにあって驚いた。
彼が狙撃銃のスコープから覗いていた顔ではないか。家屋を買い取る交渉は、順調に進んだ上、ステイーブンの娘で数年前に夫のエドワードを山で失い、今は息子のジミーと二人暮らしのアニーと恋に陥る。
なぜ、ジェイコブは、ステイーブンを殺さなければならないのか、和解の道はないのか。次の殺し屋アダムをまずしとめる。
ようやくつかんだ殺しの原因は、どうやらポーランド出身のステイーブンが共産党のスパイとして働いているらしいのだが、それほど重要な役所とは思えなかった。
アニーのなくなった夫エドワードは糖尿病だったが、折り合いの悪かったステイーブンからインシュリンの供給を止められていたために、事故にあった可能性がある。
最後にジェイコブとジェイスミスの会談になるが、ジェイコブがエドワードの父親だったことが分かり、事実がはっきりする。
ジェイコブはステイーブンにスパイの汚名を着せて、抹殺し、エドワードの敵をとり、ジミーを取り戻そうとしていたのだ。
ジェイコブと殺し屋デイビーに捕らえられ、狙撃地点あたりで、ジェイスミスは殺されかかる。
しかしデイビーを倒したジェイスミスははるか向こうでステイーブンを殺し、今まさにアニーを処分しようとしているジェイコブにむけ、長く孤独な狙撃を行う。

自然への愛が感じられる湖水地方の風景描写と相まって、日常ののんびりとした生活と狙撃者という極限状態のそれの対比が面白い。可能性は否定されているが、患者の必要な薬を水等にすり替え、死に至らしめるというテクニックは比較的面白い。

・わがままで偏屈な中産階級の老婦人をほほえましいと思うのは、イギリス人だけだよ。 あの人が百姓なら、また話は違ったろう。 ポーランド人は老いた百姓女なら好きになれるからね。 だが、階級制度が非常にはっきりしているために、イギリスには百姓が一人もいないのだ。 真の平等も本物の民主主義も、基盤にしっかりした百姓層が存在してこそ、可能なんだよ。 さもないと、現代アメリカや古代ギリシャの例のように、せっぱつまって奴隷が登城することになる。(202P)