女には向かない職業     P・D・ジェイムス


ハヤカワ・ミステリ文庫 AN UNSUITABLE JOB FOR A WOMAN 小泉喜美子訳

共同経営者のバーナードが自殺して、コーデリアは若い女手一人で探偵事務所をやっていかなければならなくなった。
そんなおり、ロナルド・カレンダー卿から、「息子が自殺したが、なぜそうなったのか、調べて欲しい。」との依頼を受けた。
息子マークは4年後にロナルド家の莫大な財産を受け継ぐ予定になっていた、心優しい、優秀な学生だった。
それがある日突然大学を中退し、マークランド少佐の庭師として就職し、その屋敷の中にある古いコテイジに住むようになった。
そして数ヶ月後、梁にベルトをかけ、首を吊って死んだのだ。
しかし、コテージを捜査したコーデリアは彼の几帳面な生活習慣と、乱雑に残されていた食器類から他殺と断定する。
友人の証言から、死体が最初は女物の下着をつけて殺されていたのに、いつのまにか普段着に替わったことを突き止める。
ロナルド卿は元ポトレイ家の庭師だったが、その娘エヴリンと結婚し、エヴリンはしばらくして他界した。
マークはエヴリンの子と見られたが血液型はそれを否定した。さらにマークが独立を希望し、財産相続を放棄すると財産は福祉団体に寄付され、ロナルド卿の元には残らないことが明らかになる。 コーデリアは古井戸に突き落とされるなど、いくつかの苦難を経た後、事件をまとめ、ロナルド卿に報告をする。
「犯人はあなただ。マークに財産を放棄されると困るからだ。」
横合いから銃の音がひびき、ロナルド卿が倒れる。
撃ったのは、ロナルド卿に仕える秘書のレミング夫人でマークは実は彼女とロナルド卿の間の子だった。

情景描写、心理描写がゆったりと落ち着いて書かれており、安心して読める。
コーデリアの芯は強いが素人っぽい、新鮮な探偵ぶりも読んでいて楽しい。

・人生は、何かちっとも悲劇的ではない、しかし明確な方法でバーニイに背を向けたのだという事は、コーデリアにはもうずっと以前に感じ取れていた。彼女にはそのしるしが見分けられた。・・・・彼がパンを落っことすと、それは決まってバターを塗った方を下にして落ちた。彼女が運転すれば問題のないミニは、バーニイが運転すると、一番混雑の激しい、始末の悪い交差点でえんこした。(12p)
・建物を調べるときには、田舎の教会を調べるときのように見るのだ。まず周りを歩いてみる。内と外とをすっかり見回る。それから推理するんだ。自分が何を見たか考えるんだ。(78p)
・「この世に住んでいる人々が互いに愛し合えないのなら、この世を美しくしていこうと努力してなんの意味がありますか。」・・・・「愛だと!・・・愛とはなんのことなんだね?人間はお互いの福祉に対して品よく心を配りあって生きることを学ばねばいかんと言うことかね?法律がそれを強制しておる。大多数の人間の最大の幸福か。・・・・それとも君は愛の定義をキリスト教で言う慈愛の意味にするのかね?歴史を読みなさい、ミス・グレイ。愛という宗教が人類をどんな恐怖へ、どんな暴力へ、憎悪と抑圧へ導いていったかをごらん。しかし、君はもう少し女性的な、もう少し個人的な定義を好むだろうな。愛とは、他の人間にたいする情熱的な行為である、と言う具合に。極度の個人的な情熱は必ず、嫉妬と独占欲に終わるものだ。愛は憎悪よりももっと悪い。・・・。」「私が言った愛とは、親が子に抱く愛のようなものをさしたのです。」(258p)
・本当に彼が自分で自分の右耳の後ろを撃ったのなら、引き金には親指がかかっていなければならないし、銃のに義理の後ろを手のひらで包むように持っているはずなんだ。(255p)
・妊娠したふりをするのは難しいことではないんですよ(284p)
・もし、悪いことをするのなら、当初の供述をし続けろ。 ひとつの話しをし続けることくらい陪審員を印象づけるものはない。(308p)