陸橋殺人事件   ロナルド・A・ノックス

創元推理文庫 THE VIADUCT MURDER 宇野 利泰 訳

バストン・オートヴルはロンドンまで汽車で1時間、かってはオートヴィル卿の荘園だったが、今は鉄道沿いにゴルフ場が出来ている。住居兼用のクラブハウスには、仲の良いモーダント・リーヴズ、その無二の親友アレグザンダー・ゴードン、元大学教授のウイリアム・カーマイクル、牧師のマリヤットが住んでいる。
ある朝、リーヴズが3番ホールから打ったボールがスライスし、鉄道陸橋下のヤナギの苗床に入った。ボールを探していると男の死体が見つかった。陸橋の脚柱にぶつかったのか顔がめちゃくちゃになっていたが、破産が伝えられたゴルフ仲間のブラザーフッドと判明した。自殺か、他殺か。
4人はゴルフを放り出し、探偵の真似ごとをやってみようと決心。所持品はマスターマンの縫い取りのあるハンカチ、ブラザーフッドあて手紙2通、一通は数字が羅列してあり、一通はクロウからグラスゴーに行く席がとれたという鉄道局からの連絡、ロンドン行き3等切符、時計2個などなど。
翌日早速、リーヴズ等はデイリー・メール記者にばけて、ブラザーフッド家、マスターマンなる男探しなどの捜査を開始した。駅員の情報から、ブラザーフッドが落ちたらしい列車にゴルフ場に時折現れる謎の人物デヴナントが乗っていたことが分かった。カーマイクルがデブナントのハッチェリーズ別荘を訪れるとデヴナントが消えていた。
カーマイクルは、ブラザーフッドは無宗教、デヴナントはカトリックなど日常二人を見かけるパターン、行動等からブラザーフッドが、不正に儲けた金を隠す手段としてデヴナントとの一人二役を演じている、という大胆な仮説を立てた。さらに双方のもとに大戦前姿を消したレンダル・スミス女史の写真を見つけて驚く。
ブラザーフッドあて手紙の数字を列車に置き忘れられていたペーパーバックを参照して解くうちに、どうやらリーヴズの部屋に忍び込む者がいることが分かった。犯人は動き出している!ピアノ演奏によりクラブハウス内の秘密通路が発見された。通路はどうやら300年前迫害を受けた牧師を隠すために利用されたらしい。中を探検したゴードン、リーヴズだが、警察官にであってしまった!しかし、壁の中の男は警察官ののってきたバイクで逃げ出したばかり、自動車と鉄道で追跡劇を演じた後、とうとう捕まえた! なんとデヴナント!ブラザーフッド=デヴナント説は間違いだった。
事件が警察の手に渡った頃、レンダル・スミス女史がリーヴズを訪ねてきた。「私はかってデヴナントと結婚していたが、都合で別れ、その後ブラザーフッドと結婚した。私は
デヴナントが人殺しなどできない人であることを知っている。どうか助けてほしい。」それを信じたリーヴズが大活躍、マリヤット牧師が犯人と指弾するまでに至るが、そこにデヴナントが自白したとの報…・。
実はデヴナントが捕まった後の話が三分の一くらいある。しかも大活躍するはずの4人の素人探偵団は失敗ばかり。どうやら作者は「素人の力なんてそんなもんですよ。シャーロックホームズを気取ったって当たるもんじゃない。警察官というプロに任せて起きなさいよ。」と言っているみたいだ。サブタイトルにずっこけ素人探偵団とでもつけたいような雰囲気。それでも探偵団の活躍ぶりはイギリスののどかな田園風景とあいまってほのぼのとした感じを与えて楽しい。
この作品は一方では非常に推理ファン好みにできあがっている。数字を指定された本のページと行とナンバーによって解く、秘密の通路、人が侵入したことをチェックするためにチューインガムを使う、一人二役らしく見える、列車とバイクと自動車の追跡劇等々。
ある者は4人組の一人マリヤット牧師が犯人と指弾し、またある者は列車から被害者をどのようにして突き落としたかを解説する。
終わりにノックス探偵小説の十誡も示されており、一度は読んでみたい作品であることには変わりない。


・人間一人殺すとなると、踏み越えねばならぬ第三の難関がある。強行への心理的な嫌悪感だ。(254p)
・学問の世界には出訴期間制限法みたいなものがあって、50年者長期間、誤った説を唱え続けていると、その学者をうそつき呼ばわりは出来なくなってしまうもののようだ。
・精神分析商売のいいところは、診断ミスの絶対にないことだ。 丁度コイン投げの勝負で「表が出たらおれの勝ち、裏が出たらおまえの負け。」 と決めてかかるようなものさ。(以上255ー257p)

ノックス探偵小説の十誡

1犯人は物語の初めから登場していなくてはならない。
2犯罪は論理的に解かれねばならず、超自然的なものに依ってはならない
3秘密の部星や通路は、一つ以上使ってはならない。
4新しい、未発見の毒物はダメ。
5不吉な外国人、殊に中国人を登場させてはならない。
6犯罪はまったくの偶然によって解かれてはならない。
7探偵が犯人であってはならない。
8探偵はわざと手がかりや自らの推論を読者から隠してはならない。
9ワトスン役がいる場合、その人物は自らの意見を隠してはならない。
10瓜二つの双子や〃そっくりさん〃を使ってはならない。