ローマ帽子の謎   エラリー・クイーン

創元推理文庫 THE ROMAN HAT MYSTERY 井上 勇 訳

 192X年9月、ニューヨークのローマ劇場では「ピストル強盗」というドタバタ劇を上演中だった。二幕目が始まってすぐ、ざわめきが大きくなり、オーケストラ席近くで男の死体が発見された。ただちに警察はドアを閉め観客全員を調べたから、直後に逃げ出した者はいない。男は、有名な悪徳弁護士フィールドだった。
クイーン警視と息子のエラリーが到着した。警視が調べると観客の中に「牧師」の異名を持つ悪党ジョニー・カッザネリがいたが、この件については無罪を主張する。弁護士のベンジャミン・モーガンはフィールドとかって共同経営をしていたが、円満に別れたとのことだ。遺品のなかからハンドバッグが見つかり、その所有者で、財界巨頭の娘フランセス・アイヴス・ホープが、恋人のステイーブン・バリー等と共に調べられた。しかし彼女は化粧室で酔漢にからかわれ、後で気がついたらなくなっていた、と主張した。
 そうした調査のうちに被害者は、ガソリンを蒸留して作ったらしいテトラエチール鉛をウイスキーに入れて飲まされたこと、一幕目の終わりにシルクハットを被っていたが、それが無くなっていること、どうやら彼は強請を業としており、その相手から殺されたらしいことが推定された。フィールドの愛人アンジェラ・ルソーは、モーガンと連絡を取った現場を押さえられ尋問される。彼女は「円満に別れたは嘘で、フィールドに強請られて、破滅の危機に瀕していたモーガンが犯人。」と主張するが、証拠はない。
 そんな捜査を尻目に、エラリーは、徹底的にシルクハットを追う。衣装部屋にある共用のシルクハットは似ているが、フィールドのものとはメーカーが違う。とすればシルクハットに強請の書類が入れられており、誰かが、一渡りの捜査が終了した後、犯行後被って、そのまま外に出たのではないか。さらにフィールドのベッドの天蓋の上から、強請に使う書類を見つけ、そのコピーと引き替えに金を受け取っていたことを突き止める。
 そこでクイーンは「私は、フィールドの下僕だったチャールズ・マイクルズだ。君が受け取った書類はコピーだ、本物を欲しければ、しかじかの金をもって指定の場所に来い!」との手紙を、犯人と目星をつけた男に送りつける。そして逮捕!男は、血にわずか一滴黒人の血が混じっていることを種に強請られていたのだ!

 長編にもかかわらず、殺人は1件のみ、その謎をあくまで論理で解いて行く醍醐味がたまらない。終わりも近くなった頃、作者は「さて犯人は誰でしょう。」と読者に挑戦している。これだけの説明で皆さんは分かるだろうか。ヒントはシルクハットは正装しているときにつける物だ、と言うこと。
 テトラエチール鉛とは随分奇異な毒物だが、その毒性はどの程度なのだろう。本文では「・・・耳の後ろの柔らかい部分に、その毒薬の希釈しないままの奴を塗ってみた。 ・・・・・わしは1時間ばかりウサギを見張っていた。その後は、もう、見張りの必要はなくなった。・・・・死んだウサギになってしまった。(245p)」 と言うが、一度調べてみたい。(1929)
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