聖アンセルム923号室     コーネル・ウールリッチ

ハヤカワ・ポケット・ミステリー  HOTEL ROOM  宇野 利泰 訳


 ニューヨークの聖アンセルムホテルは1896年にオープンし、1957年に大改造する事になった。この物語はその923号室で起こったエピソード集。時代の一断面を切り取ることによって歴史を感じさせるところがすばらしい。
1896年6月20日の夜 コンプトン夫妻が初夜を過ごすために、923号室を訪れる。ところがいざ床入りという時に、ちょっと外に出た新郎がそのままいなくなってしまう。
甘い新婚の様子を描いた前半と、夫が消えた花嫁の悲しさを描いた後半が見事にかき分けられ、ている。新婦は暴漢に襲われて殺されたことがわかる。
1917年4月6日の夜 アメリカが参戦を決めた日、923号室にはドイツ系の老夫婦が泊まっていたが、入営する若い兵隊が一夜の宿をもとめてやってくる。
老夫婦を追い出す、若者が入室する、ガールフレンドを呼んで急遽結婚する・・・と話は進むのだが、老夫婦と市民感情、若いカップルの戦争がある故の盛り上がりぶりがよく描かれている。
1918年11月11日の夜 戦争が終わって若いカップルが再び会うがもうお互いに熱が冷めていた話。
1924年2月17日 落ちつめられたギャングの一団が逃げ込むが、部下は逃げだし、結局最後はボス一人。殺し屋がゆっくりと近づく。追いつめられた男の感情が丁寧に描かれている。
1929年10月24日 ウオール街が暴落した時期。文無しになった男が自殺をしにやってくる。彼が考え直すまでの心の変化を描く。
・・・・・・の夜 駆け落ちをしてきた若いカップル。男は純情で正式に結婚するまではまとうと簡易ベッドを部屋に運ばせる。しかし、男は日本人、その日は真珠湾攻撃が行われた日だった。
1957年9月30日 もう取り壊しになる923号室を老婦人が利用。彼女はあの新婚初夜に、夫が消えてしまったコンプトン婦人。静かに古い夫の写真に見入りながら昔を思い、死への道を選ぶ。

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