創元推理文庫 TRIAL AND ERROR 鮎川 信夫 訳
主人公のトッドハンターは、動脈瘤であと数ヶ月の命と宣告される。
この男は、せいぜい雑誌に寄稿するくらいの風采のあがらぬ、しかしながら金はある紳士ということになっている。
彼は残された人生をいかに有効に過ごしたらよいか、友人たちと相談したところ、驚いたことに社会に害悪を及ぼしている人物を抹殺せよ、という結論で一致した。
最初にロンドンレビュー誌のきらわれユダヤ人管理職フィッシュマン殺害を考えるが、彼は、交通事故を装ってあっさり他人に殺されてしまった。犠牲者探しも難しい。
次に大衆作家ニコラス・ファロウエーの愛人ノースウッドが候補に登る。
彼女のおかげでニコラスの妻グレースは、離婚寸前、長女のバイオラは追い出され、次女の女優のフェリシテイは能力があるのに芸能界から追放された。
トッドハンターは新しい銃を買い、ノースウッドと、夜遅く彼女宅の四阿でデートをする約束を取り付ける。
死体をあとに日本に休養の旅にでる。
しかし戻ってみると、バイオラの亭主ビンセントが逮捕され、死刑を宣告されていた。
彼は自宅にいたとの偽証がばれ、しかも凶器の銃が発見されるなどで警察側の証拠は十分。
トッドハンターはあれは自分がやったのだと申し出るが警察側は「精神異常だ」「ビンセントをかばおうとしてやっているのだ」などと述べ立て、相手にしない。
ようやく王室顧問弁護士のプリテイボーイを担ぎ出し、「自分に有罪を宣告させる。」という珍妙な裁判を開かせることに成功する。
そしてめでたく死刑宣告をうけ、さらにビンセント釈放のため、彼がジーンとの喧嘩の後捨てた時計まで探し出す。世論の同情と喝采を受けながら彼は死刑の執行をうけ・・・・。
死後、真実が暴露される。犯人はバイオラ、彼女の犯行と気づいたビンセントが罪をかぶったが、事件直後駆けつけたトッドハンターが自分のせいにしようとした・・・・。
冗長な感じもするがトッドハンターの刑が確定した後の記述、どんでん返しはひねりが利いていて面白い。
作品を読んで「人は余命があと2ヶ月とか3ヶ月とか限定されたとき、なにをやろうと考えるだろうか。」という問題を改めて思い直し、同時にこのタイトルは「裁判と間違い」という風にも訳せるのではないかと考えた。
また章タイトルも悪漢小説風、安芝居風などとしゃれている。
一つの犯罪にいろいろな解釈が成立する点は「殺意」「毒入りチョコレート事件」等と同じ書きぶりと思った。
・性というものは、もっとも調べにくい領域だといったのを覚えていますよ。・・・性のこととなると、旧石器時代の人間ほどにも知識がない。(189P)
・犯行の現場やその付近で誰にも見とがめられず、いかなる証拠も指紋も残さず、そして犠牲者を殺す動機を持っていないならば、小説では必ず逮捕されることになっていても、実生活では、それほど確実には捕まるとは限らないということであった。(193P)
・このときにはもう、トッドハンター氏は、死ぬのもまんざら悪くはないという結論に達していたのである。(496P)
・殺人はどんな場合も正当化されないといわれている。 しかし、そうだろうか。
一人の人間を除去することによって、多くの人間に幸福をもたらすより、ダニのような人間でも生かしておく方がいいというほど、人間の生命というものは貴重なのか。(520P)