死神に愛された男            カトリーヌ・アルレー

創元推理文庫 LE BATTANT ET LA CLOCHE 安堂 信也 訳

 美しい社長秘書リーナとの結婚をひかえたモラテイエ商会のモードデザイナー、ポール・ラテイノは幸せに浸っていた。しかし、社長のモラテイエはほんの遊び心でリーナを誘惑、関係してしまう。そしてラテイノは社長夫人に誘惑される。 そんな折り、リーナが社長の家の車庫の中でバックしてきた車にはねられ死ぬ。
 警察は事故として処理し、社長はラテイノに高い地位を与える。そして社長、同僚と共に北アフリカを旅するが、途中で事故。社長も同僚も死んでしまう。
 ラテイノのもとには有能なバレルが送られてくる。しかし、あくまでリーナの死の真相を知ろうとしたラテイノは社長夫人及びバレルと対決する事になる。夫人がリーナを殺したこと、バレルは自分の子であることを白状し、対決は頂点に達する。 えにしだの実を食べて自殺を図り、バレルに罪を着せ逆転をねらったラテイノだが、絶命し、彼ら二人は罪を逃れる。

・愛と憎しみは表裏一体だわ。どちらも極端に走るものよ。(25p)
・美しい感情で結ばれている人間関係ほど壊れやすい事は確かだ。世界を動かしている三つの力、金と性と笑いを前にしたら、美しい感情などひとたまりもない。(52p)
・さて、自殺と決めたとしてもどんな風にするかが問題だ。銃は使えない。持っていないし、興味もない。・・・・車の事故はどうか。・・・・・川に飛び込むか。・・・・首を吊るか・・・・では毒薬か。(190p)
・現代では人が死者に割く時間は極く短い。人は死ぬのではなく消え去る。技術が進歩しすぎて、葬儀費用にすべてが含まれていて、それさえ支払えば片が付く。付加価値税も祈祷料も。そして、滅多にないかも知れないが死者への断ちがたい思いも。「静かに眠ってください。あとはわたしたちにまかせて」という決まり文句も少し意味がずれてきてしまっている。今では「眠ってください。残り物はすっかりいただきますから。」なのだ。死者はすべてを取り上げられて何も残らない。思いでも形見も。残るのは戸籍カードの名前だけだ。今では誰が墓地に足を運ぶだろうか。だからさけがたい期日が訪れる前に、大いに人生を楽しまなければならない。(233p)

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