スイート・ホーム殺人事件     クレイグ・ライス

ハヤカワ・ミステリ文庫 HOME SWEET HOMICIDE 長谷川 修二 訳

巻末に小泉喜美子の解説が載っていて、それに
「私は彼女のようになりたいと思ってきました。彼女のかいたようなミステリが書きたいと願いつづけてきました。」
そして生の新聞の三面記事とどう違うときかれればこう答えるだろうと書いている。
「おまえさん、ミステリというのはね、そういうものとは厳然とたもとを分かっているものなんだよ。そういう生の新聞記事を見せられてうんざりする人間だけが、この愉快で楽しくて技巧とセンスにものを言わせる世界を味わう資格があるのさ。私のミステリはその人たちのために書いているんだよ。」
けだし同感であり、彼女の気持ちが分かるような気がする。
ほのぼのとした日常の中に、とんでもないことが紛れ込んでいてびっくりする。

物語はお隣のおくさんフローラが何者かに射殺されたところから始まる。
カーステアズ家は推理作家の母と14歳と12歳の女の子、それに10歳の男の子。子供たちは「もしお母さんが犯人を捕まえれば、有名になって小説もうれるにちがいない。」と考え、事件解決に奮闘する。
やがて、盗み出した書類からフローラが多くの人の弱みを握り強請りを稼業としていた。
強請られていた側が殺したとすると、画家で描くのは水ばかりというピエール、顧問弁護士のヘンリー・ホルブルック、チンピラギャングのフランキー、事件を覗きたくて仕方がないカールトン・チェリントン3世夫人、女優のポリー・ウオーカー、それに姿をくらました夫のウヲリー等が怪しくなる。 次にフランキーが蜂の巣のような死体となって発見される。
結局事件は少し前に起こったストリップダンサーのペテイ・リモーが誘拐されて身代金を払ったにも関わらず殺された事件が発端。
実はペテイはカールトン・チェリントンの娘で、カールトンは身代金支払いのために公金に手をつけた。
そして破滅した彼が復讐のために誘拐を手引き、実行したフランキー、金を手に入れたフローラを殺したものだった。 事件を解決する中、推理作家のお母さんと孤独な警部ビル・スミスの間に、子供たちの助力でロマンスが芽生える。 ほのぼのとしたユーモアとペーソスが全編を支配し、この作家の特色を十分に出している。

「そうでないのでしたら失礼させて下さい。きょうは午後から二人三人殺す約束になっていまして・・・」なんてマジ? ところでこの作品を訳したのは長谷川修二という明治うまれの人。なかなか現代風の訳である上、めずらしく全文「ました。」調である。ムードがあってよろしい。