スタイルズ荘の快事件    アガサ・クリステイ

ハヤカワ・ミステリ文庫 THE MYSTERIOUS AFFAIR AT STYLES 田村 隆一 訳

 女史の処女作。ヘイステイングス卿は、友人のジョン・カヴェンデイッシュに招かれてスタイルズ荘に赴く。そこでは夫に死に別れた老婦人エミリーが権力を握り、義理の息子のジョン夫婦、ジョンの弟ローレンス、エミリーの相談相手イヴリン嬢、薬剤師のシンシアなどが彼女に従っていた。ところが最近彼女は二十歳も年下のアルフレッドと結婚し、膨大な財産を相続する予定だったジョン等は穏やかでない。
 ヘイステイングス郷が到着して11日目、密室の中で夜中にエミリーが苦しみだし、亡くなってしまった。自然死かとも思われたが、医者はあの苦しみ方から殺されたと断定、検屍の結果ストリキニーネによる毒死であることが分かった。現場には暖炉の中に焼けた遺書と思われる紙の一片、絨毯のしみ、緑色の布きれ、壊れたコーヒー茶碗などがあるが、決め手にはならない。ヘイステイングス郷は、近くに住むポアロに応援を頼む。
 一家からにらまれているためか、イヴリン嬢などが「犯人はアルフレッドに決まっている。」と主張。しかも検屍審問の頃には薬局の店員が「アルフレッドがストリキニーネを買っていった。」と主張し、有罪かと思われた。ところがこのままでは絶対に無罪という結論になる、と確信したポアロは「彼が犯行時刻にその場に居合わせなかった証拠がゴマンとある。」と主張し、アルフレッドは釈放される。
 ポアロが分からないのはコーヒーに混ぜて飲んだとすると、1、2時間で苦しみ出したはずなのに、実際には何時間も経ってから苦しみだして死んだという点だ。ポアロが捜査を続けている間にロンドン警視庁のジャップ警部等は毒物学者のバウエルシュタイン博士やジョンを逮捕してこれで解決かと思わせたりする。もちろん決め手がでない。
 そして最後に壺の中に隠された手紙を見つけたポワロは、皆を集めて謎解きをしてみせる。暖炉で遺書を焼いたのはエミリー自身、この暑いさなかに暖炉を女中に命じて点火させたのがなによりの証拠。実は彼女はアルフレッドに遺産が行くように遺書を書き換えたのだが、彼が他の女と恋仲と知り、焼き捨てることにしたのだ。この書き直した遺書がどんな内容か心配なメリーが彼女の部屋に進入、箱の中の遺書を見ようとした。ところが、コーヒーに入れた麻酔薬で眠らせただけのはずの夫人が急に苦しみだし、その上人が来たためあわてて隠れた。この際、緑の作業着の袖が切れ一分が残ったり、コーヒーをこぼしたりしてしまった。
 殺人の方法だが、エミリーは、医師の処方にしたがって強壮剤としてストリキニーネを常用していたが、 犯人はこれに臭化物をいれ、結晶化したストリキニーネを沈殿させるようにした。エミリーが瓶の最後の部分 を飲むと、濃縮されたストリキニーネが体内に入り、毒物としての作用を現すという凝ったやり方。しかもストリキニーネは即効性だが、睡眠薬を一緒にとると何時間か経っ てから効果が現れるので、犯行時刻のごまかしにつながっていたのである。
 犯人はエミリーを愛しているように見せながら実はイヴリンを愛し、財産だけをねらっていた卑劣な男、一度逮捕され釈放されれば二度逮捕されることはない、と最初に自分自身を疑わせた男、そして罪をジョンに着せようとした男・・・。
化学反応を利用してアリバイを作っているところが実にユニーク、一度逮捕され釈放されれば二度逮捕されることはないというアイデアは後に「ゼロ時間へ」などでも使われている。

* ストリキニーネ
* 化学反応
* 濃度の差による薬剤の効き方

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