ハヤカワ・ミステリ文庫 THE DAUGHTER OF TIME 小泉 喜美子 訳
マンホールに落ちて足の骨を折り、長期入院する羽目になったロンドン警視庁グラント警部はふとしたことからリチャード3世のポートレートを手に入れる。
リチャード3世は薔薇戦争の昔、王位を奪うため、二人の王子を殺したとされる極悪非道のヨーク家の王、しかし彼は、その容貌から、とても犯罪者とは思えなかった。
大英博物館で働く歴史研究生、キャラダイン等の協力で調査を進めるうちに、意外な事実が分かってくる。
リチャード3世はせむしでびっこと言われているがどうも嘘らしい。
リチャード3世について書かれ、権威があると言われるトーマス・モアの歴史本は、実は彼の不倶戴天の敵で、ヘンリー7世の時代にカンタベリー大僧正になったジョン・モートンの著作の受け売りだった。
彼はイギリス育ちで、良識豊か、私生活においても評判がよく、兄エドワード4世を常に助けていた。
その彼が兄失脚後、兄の二人の王子を殺す訳がなく、王子の死後も母のシセリー・ネヴィルは彼を頼って残りの王子に仲良くするよう進めている。
一方、彼の後王位についたヘンリー7世は全くのフランス育ちで、冒険家で野心的であったらしい。
彼はシセリーを含めて、リチャード3世関係者をことごとく何らかの罪を着せて追放するとともに、自分に都合のよいように歴史を書き換えさせていた。
この本は言い換えれば歴史ミステリと言った趣である。
しかし、訳者あとがきに述べているように、
「江戸川乱歩の「未知の分野を手に入る限りのデータによって解明してゆく面白さ」はあらゆるミステリの第一歩をなすもの」
で広義の探偵小説あるいは推理小説に含めることができるのだろう。
高木彬光の「成吉思汗の秘密」と同じジャンルにはいる。