創元推理文庫 TRENT'S LAST CASE 大久保 康雄 訳
アメリカ財界の大立て者マンダースンが別邸で何者かに頭を撃ち抜かれて即死した。彼の死でウオール街は大恐慌を来す。この事件に優れた新聞記者にして画家探偵のトレントが挑む。
未亡人メーベル夫人等の証言によれば数ヶ月前から被害者はふさぎ込み、様子がおかしかった。秘書のマーローは絶対的なアリバイがあると考えられたが、最後にマンダースンを見たという夫人の証言は「実はマーローが化けていたからだ。」と推定したトレントは犯人を彼と考える。原因はメーベル夫人が夫の変わりようをおそれ、マーローを恋し、マーローはそれを助けようとして犯行にいたったのでは無いかというのである。
しかし、夫人に恋してしまったトレントは、捜査結果を書いた手紙をメーベルに残し、一人消え去る。
半年ほどたった後、トレントは夫人、マーローと再会。それによれば、マンダースンは自殺だった。彼はマーローに嫉妬し、彼を陥れようと存在しない男に会いにサザンプトンに行くように命じたが、その直後自殺した。状況から自分が犯人にされるおそれありと考えたマーローは、アリバイ工作をしたと言うのだ。
しかし、叔父のカプルズは「あれは私が殺した。」と告白・・・。
最後は探偵業に限界を感じたトレントがメーベルと結ばれる。 恋愛劇と推理小説が結びついているところが特色があり、非常に面白い。
また一つの犯罪劇に3通りの答えを用意しているところもこの時代にしては珍しいのでは無いか。
この作品は最初に チェスタトンに捧げる、とあり、彼から「木曜の男」を貰ったからだとある。作品で「現実の事件はいろいろな人間ドラマがあって、いろいろな見方があるのだよ。一筋縄では行かないよ。」とチェスタトンを批評しているようにも見える。
・靴についた裂け目から所有者よりも足の大きい人間がはいたと推定する下りが面白い。(170P)
・服装がおかしく、義歯が枕元においてあったことから「あの晩家にいたのはマンダースンではなかった。」と推定する下りも特色がある。(171P)
・鼻の周りにジャムをいっぱい塗りつけていても、状況証拠に基づいて、その犬にジャムを盗んだ罪を着せて絞め殺すようなことをしてはならない(298p)
・人間の推理力のむなしさを、まざまざと見せつけられて、僕は完全に降参しました。(309p)
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