ハヤカワ・ミステリ文庫 THE MOVING FINGER 高橋 豊 訳
飛行機事故で負傷した傷痍軍人ジェリー・バートンは、妹のジョアナとともに静養にリムストックの小村に居を構えた。ところが静かなはずのこの村に、他人を中傷し、読む方がはずかしくなるような匿名の手紙が次々に届けられ、村は恐慌状態に陥った。文体から手紙は女性の筆の様に見えた。
弁護士のデイック・シミントンは、再婚の妻モナを迎えて静かに暮らしていた。自宅にはモナの連れ娘でかまってもらえぬミーガン、二人の子供、その家庭教師で美貌のエルシー・ホーランドがいた。お手伝いはアグネス、コックはおしゃべりのローズの役だった。
そんな中、モナが「生きてゆけなくなりました。」の紙切れと、いやらしい匿名の手紙を残して青酸化合物自殺ををした。続いてバートンのお手伝いパトリッジに何事か相談に来ると言っていたアグネスが、鈍器で殴られ死体となって発見された。
ナッシュ警視は、デイックに気があるらしい医者の娘エメを,、あのおかしな手紙をエルシーに送った容疑で逮捕する。しかしたまたま旅の途中当地により、相談を受けたミス・マープルは「デイックは美しいエルシーに恋してしまったのですよ。妻のモナがじゃまでしょう。そこでまず犯行を女性と見せるために、匿名のあのいやらしい手紙をばらまいたんです。それから自殺に見せかけて殺したのだけれど、アグネスに、モナの飲み物に毒物を仕込むところを見られたので、彼女も殺したのです。最後にはエメの犯行に見せる細工もしました」
目的の殺人をなすために、あらかじめ別の犯罪を犯して、捜査する側を攪乱するという趣向は最近読んだ栗本薫の「絃の聖域」にあった。犯罪らしく見えてくるのがだいぶ後半で、それまでがちょっと退屈だが、後半の盛り上がりが素晴らしいからよしとするか。田舎の噂社会の様子がよく描けている。
・職業柄様々な犯罪事件を見聞していたので、妻が怪しい死に方をした場合はまずその夫に嫌疑がかかることを知っていました。むやみに毒殺しても、死体を発掘されて調べられる可能性があることも知っていたでしょう。で、彼はほかのことに付随しておきた単なる事故死としか見えないような死に方を創案したわけです。(301p)
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