創元推理文庫 UNE FEMME PIEGE 安堂 信也 訳
フランスとイタリアの国境にある巨大な療養所がリゾートマンションに生まれ変わろうとしている。セリーヌと愛人ジャンは、冬の寒い夕方、その療養所へ車を走らせていた。ジャンが、生まれてくる子供とセリーヌのために、そこの一部屋を買ってくれたのだという。しかしジャンは、「パンクらしい!」の話に車をおりたセリーヌを残して、そのまま走り去ってしまった。しかし突然雪崩が発生。車はつぶされ裏切り者のジャンは死んでしまった。
セリーヌがようやくたどり着いた診療所には、イタリア人誘拐犯のアルドとセルジオ、そして老人の死体。ほかには誰もいない。二人の誘拐犯はちん入者に驚くが、さらにそこに建築家のフォレストと秘書が戻ってきた。
誘拐犯二人は秘書を撃ち、フォレストを捕らえ、仲間の飛行機の到着を待つ。先ほどの雪崩は地震のためらしい。そのためか、ほかの理由か飛行機は来ない。
彼ら4人の間に徐々に緊張が高まる。そしてセルジオが何者かに短剣に刺されて死ぬ。誘拐犯仲間のルイジが戻ってきて、身代金を独り占めしようとし、セルジオを殺したらしい。
ついにセルジオの銃を密かに奪い、身代金を隠したセリーヌ、フォレストと仲違いする誘拐犯二人組の対決・・・。
・ここかしこの急流は鍾乳石のような巨大なつららとなって、パイプオルガンのようにクリーム状の雲の上にたれ下がり、その下に尿のように黄色いクレパスが口を開けている。寒風が平原の綿雪を大波のように膨らませ、終わることのない冬が磨き上げた大氷河に黒い岩のかさぶたが顔をだしている。(138p)
・月光が部屋に差し込んでいた。白いシーツの下でセルジオは眠っていた。月の光の満ちた部屋には心を打つ、この世のものでない魅力があった。外では雪原がやはり白い衣で覆われていた。雲は消え去って空は静かに澄み、冷たい光の中で恋人たちが抱き合う夏空にもにていた。(184p)
・療養所の荒廃はそのまま彼の魂の空虚を表すだろう。 教養や知的好奇心の欠如が産みだしてしまったこの空虚を埋める家族との心のつながりや女性関係も全くなかった。(188p)
r991027