闇からの声          イーデン・フィルボッツ

創元推理文庫  A VOICE FROM THE DARK  橋本 福夫訳

 引退した名探偵リングローズは、イギリス海峡に面する旧領主亭ホテルに招待された。ところがその夜、幼児の恐怖におののく悲鳴が聞こえた。それも二度・・・・。声の主の幼児は、ブルーク卿の一人息子ルドヴィックで、1年も前に死んでいた。
 事情を調べると、イタリアでブルーク卿が乗馬中崖下に落ちて死んだ。ルドヴィックは爵位と財産を引き継ぎ、ブルーク卿の従僕ビットンのもとに養われていた。しかし何かにおびえていたとの話だ。ルドヴィックが死亡したため、爵位と財産は叔父のバーゴイン・ビューズが引き継ぐことになった。
 ビューズがビットンと組んで地位と財産を奪ったに違いない、と考えたリングローズは幼児が驚かされていたと思われるお面を、幽霊のようにしてビットンに幾度となく見せつける。気の弱いビットンは追いつめられ、自白も目前かと思われたが自殺してしまった。
 リングローズは、蒐集狂のバーゴインに由緒ある象牙細工を売ると、偽名で近づき情報を得る。ブルーク卿が亡くなったルガノにおもむき、青年医師、別荘番の老人等から情報を収集し、ブルーク卿も殺されたとの確信を得るが、証拠がない。
 そこで偽名の男が幼児の死を調査している、との情報を流し、相手をおびき寄せる。ルガノで会った二人は、互いに思うところを秘めながら、卿が死んだ現場に向かう。バーゴインはヒオシン入りのワインを飲ませ、リングローズ殺害を謀るが失敗、後にイギリスにきたところを逮捕される。
 最初の闇の中の幼児の声は、事件の調査を願った同宿のベレアズ婦人の演技だった。

 この小説は最初に犯人が分かってしまうが、その証拠集めの努力に焦点を絞って書いている点が普通の推理小説と大きく異なっている。また登場人物の性格描写が詳しく、性格からくる犯罪のあり方にも注目している点が特色である。

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