ハヤカワ・ミステリ文庫 INTO THE NIGHT 稲葉 明雄 訳
若い娘マデリンは、ピストル自殺をしようとして思いとどまるが、その直後、暴発し、窓の外を通りかかった女スタア・バーレットに命中、彼女は死んでしまう。自責の念にかられた彼女は、生前のスタアを知ろうと調査に乗り出す。
母親の証言から、歌手志望だった彼女は、ヴィックという男と結ばれたが、先輩のアデレイド・ネルソンに嫉妬され、結婚生活を壊され、死ぬ前には、夫とデルを殺したいと考えていたらしい、ことを突き止める。マデリンは、スタアが果たせなかった復讐を決意する。アデレイドはジャック、シラーの二人の男を愛人に持つ奔放な女、まずそのアデレイドに弟子入りし、次第に親しい仲になる。しかし、いざ復讐決行の矢先、彼女は愛人の一人に殺されてしまう。
次にヴィックを探す。孤独な精神のおかしくなった男に行き会うなど、何度か失敗を繰り返すが、ついに本物のヴィックをつきとめる。彼はスマートな写真屋だった。ところが次第に親しくなり、心が鈍るが、いざ決行となったとき、二人はスタアにまつわる真実を語り合うようになる。ヴィックとスタアは幸せな結婚をしたが、ある時二人が実は兄妹だったことがわかり、スタアが絶望したのだった。
最後はウールリッチ作品らしくもなく、二人が結ばれてエンデイングとなる。不完全だったウールリッチの遺稿を「八百万人の死にざま」などで有名なローレンス・ブロックが補った作品。この作品も話の筋立てにはずいぶん無理なところがあるが、叙情あふれるウールリッチ節は健在、それを楽しむことを念頭に入れて読む作品と言えよう。
・音符を一つかみ五線紙の上に投げつければ、それで唄ができると、あんたは思ってるみたいだけれど、そんなものじゃないわ。(99P)
・ほんとにいい歌詞ってものはね、歌詞自体の中にメロデイが込められていて、作曲家がそれを見つけて掘り出してくれるのを待っているって位のものなの。(106P)
・(写真)面倒なかけ算をやってもらって、彼女の眉のもっとも美しい変化を得られましたよ。(268P)
・彼女は形式主義者だった。生まれながらにして流行遅れだった。演劇には筋がほしかった。音楽にはメロデイがほしかった。絵画は自然のイメージの再生品であってほしかった。(286P)
・死は永劫の眠りである。(297P)
・死んだ物の方が生き残った物より幸運だったといえることがある。(349P)
・当初、私はウールリッチから優れたサスペンス小説のなんたるかを学ぼうとした。物語の構成、人物造形、テーマ、落ちの付け方、卓越した心理描写、緻密な情景描写の数々・・・。
自分でミステリーを書き始める以前の話だ。(370P、小池マリ子)
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