ハヤカワ・ミステリ文庫 THE TRAGEDY OF Z 宇野 利泰 訳
「Xの悲劇」「Yの悲劇」から10年後・・・・・。私はサム元ニューヨーク警視の娘、ペイシェンス・サム。
探偵事務所を開いたパパに、大理石採掘会社の社長エリヒュー・クレーが話を持ち込んだ。
「わたしの共同経営者アイラ・フォーセットはおかしな話ばかり持ち込み、どうも胡散臭い。調べてほしい。」
アイラは悪名高いこの地方選出のジョエル・フォーセット上院議員の兄で怪しげな噂の多い人物。
父と共にあのアルゴンキン刑務所のあるリーズ市のクレー氏宅を訪問した。
そのとき突然、ジョエルが自宅書斎で刺し殺された、というニュースが入ってきた。犯行現場にはHEの刻印をおした奇妙な小箱の切れ端があった。
秘書によれば上院議員は慈善バザー用に刑務所から送られた玩具等と一緒に送られて来たが、添付の封書をみた途端蒼白になったという。封書は消えていた。
秘書が作成した手紙のうち、5通目のものは売春組織のボスファニー・カイザーに当てたものでジョエルと裏世界のつながりの深さを感じさせた。
また金庫の中から発見された手紙は前科者アーロン・ドウのジョエル宛脅迫状に見えた。
しかもジョエルの預金がアーロン・ドウによって引き出されていた!
警務所長マグナスの話ではドウは模範囚で今更殺人など犯しそうにないと主張するが、退けられ、やがてドウは逮捕される。
状況が非常に悪く、しかも地方検事ジョン・ヒュームはジョエルの後がまをねらっていたため、ここで点数を上げようと有罪を主張する。
私たちは困って、あのドルリー・レーン氏に相談した。氏はドウの弁護士マーク・カリアーを味方に付け、犯人は右利きのはずだが、ドウは左利きなどと弁護を試みるが、陪審員を納得させることが出来ずついにドウは終身刑になってしまった。
その後アイラの弱みを握るべく、クレーがヒュームに対抗して立候補する事になった。私は色仕掛けでアイラに接近、ついに彼にあの奇妙な小箱が届けられた事を確認する。
一方、レーンはスカルチなる男の電気椅子死刑執行シーンを見学する。あれこれ悩むうち、突然作業中のドウが脱獄。そしてその日のうちにアイラが射殺される。現場にはJEの文字が記された小箱、ドウの手になるものと思われる手紙。やがてドウが逮捕され、今度こそ本当に死刑の判決を受ける。
しかしボスファニー・カイザーがドウの助命を願い出た事をきき、あくまで無罪を信じるレーンは「次に殺されるのはあなたかもしれない。」と脅して真相の暴露を迫る。
彼女によると25年前にフォーセット兄弟と彼女はコーチシナで高価なダイヤモンド原石を運んでいた船を襲い、乗組員をほとんど殺して宝石を略取し、現在の繁栄の基をきづいた。
ところがたった一人生きていた男がいた。二等船員のドウだ。船の名をHEJAZ(サウジアラビアの州名、首都メッカはイスラム教の聖地)と言う。
しかしレーンはドウは絶対に犯人ではないと信じる。真犯人は右利き、アルゴンキン刑務所に密接な関係、昼間勤務者、スカルチの電気椅子処刑に立ち会ったはず、などから消去法により絞り込んでいった。
処刑直前になって、レーンによって真犯人が暴露される。金に困っていた犯人は、アーロン・ドウが彼らを強請ろうとしている事を知った。そこでフォーセット兄弟を殺して、金を巻き上げ、罪をアーロン・ドウに着せることを計画した。彼を死刑に処してしまえば、疑われる心配はない!
ペイシェンスの頭が良く、小生意気で、そしてかわいい活躍ぶりが良く描かれている。「あなた達の目は、ふし穴同然ですわ。」(73p)「私にはそれが立証できますのよ。」(134p)エトセトラ
・わたしにクリノリンで膨らましたスカートか、装飾たっぷりなペチコートの時代へ戻れとおっしゃっているのよ。そうでしょう。女に選挙権を与えるな、タバコを吸わせるな、品の悪い言葉を使ったり、ボーイフレンドを作ったりするな、他人をあざけるな。そしてその上産児制限は悪魔の仕業だと・・・。(136p)
・このように打ちひしがれたこの世の敗残者に、人間を殺害する力など有るはずがないのは、修道尼の顔のように明瞭だった。(139p)
・右手にナイフの有る場合はつねに、カフスボタンの傷が右側に、ナイフが左手の時は、左側につけられます。(189p)
・すり替えられた祈祷書の方には連絡メッセージが入れて有って、 神父がそれを警務所内に運んで行く役を務める(293p)
(1933 28)
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