光文社文庫
キャサリンは、浜口に連れられて元旦の京都八坂神社おけら参りにきていた。その雑踏する境内で振り袖姿の若い娘が破魔矢を胸に刺されて殺された。袖から「やくやもしほのみもこかれつつ」の札。さっそく狩矢警部がかけつけ、キャサリンたちとご対面。若い娘は、麻生医院の副院長麻生信也の愛娘で百人一首の得意な麻生ゆかり、と判明する。キャサリンの撮った現場写真に百人一首の権威宮井教授が映っており、ゆかりはその弟子、チャンピオン野上春彦の恋人でもあった。キャサリンの猛烈な百人一首の勉強が始まる。宮井教授は妻は2年前に亡くなっていたが、しのぶという娘がおり、彼女も野上を恋しているようだった。宮井教授やしのぶ犯人説が流れるがもちろん決め手はない。当日キャサリンたちが見かけた小菊という芸妓を訪ねると、彼女も宮井教授の弟子、当日は同僚の小雪と出かけたが事件に出会い、逃げ出したと言う。
そんな中、今度は宮井教授が自宅書庫の中で死んでいた。部屋は内側から鍵がかかっており、玄関も閉まっていたから二重密室である。尻に数カ所の鋭い物で刺したような穴。剣山にでも座ったのか。毒物はパラチオンかホリドールあたりか。しかしどちらも現場にはない。代わりに雨傘、花瓶、松の枝。懐から「ゆくへもしらぬこひのみちかな」の札。全国かるた大会が石山寺で開かれ、野上が優勝したが、勝負の時、彼はあの殺人現場から出た札と「わがころもてにゆきはふりつつ」で躊躇するようだった。突然狩衣を着た男の死体が発見された。麻生信也、青酸カリ入りのウイスキーぼんぼんを食べたためだった。そして予想とおり、「わがころもて」の札。
小菊が盲腸で入院したこともあって、狩矢警部、キャサリン等は、麻生医院を訪ねるが、狩矢がトイレでおかしな徘徊老人に会ったり、キャサリンが病院の地下で十人ほど「助けてくれ」と叫ぶ患者を見かけるなどおかしなことが起こった。週刊誌によるとかって脳外科の権威有本医師が同病院にはいるという。実験台になった患者がいるのではないか。
野上等の口から、3年前の事件の話が明らかになった。舞妓小菊の弟、江木は、百人一首の大会で恋人の麻生ゆかりと組み、インチキをして勝つ予定だったがゆかりの裏切りにより、野上に破れ、焼身自殺をした。その時握っていた札が問題の三枚の札だったのだ。キャサリンは百人一首暗号論を研究したあと、三枚の札の上の句の最初の文字をつなげるとコユキになることを発見するが、コユキの名をそのようにして決めた、と知りがっかり。
さらに電話の様子がおかしいのでキャサリン等が小雪と駆けつけると、野上春彦が自宅で農薬のついた千枚通しで刺されて死んでいた。この時、小菊にも電話しているから皆アリバイがある。そしてまた片思いの句が一枚。麻生医院でロボトミー手術をほどこされ廃人となった男が、学生に轢き逃げされる。麻生病院は、渋々学用患者の存在を認め、現場を見せる。
最後にキャサリンは謎を解いた。二重密室は入口は砂を巻き、ドアが完全に閉まらないようにしておいた。書庫への進入は本箱の裏の窓の棒状差し込み錠の穴の奥に磁石を埋めこんでおいたのである。電話のトリックも解けた。ダイヤル式でたとえば7をかけようとする時途中で止めれば6や5にかけることを利用して、近くの公衆電話にかけていたのだ。
犯人は実は江木の妹だった。父が無料につられて学用患者として麻生医院に入院するが、廃人にされ死んでしまっていた、恋人をゆかりに奪われた、目撃された、エトセトラ、エトセトラ。
山村美砂の作品は、やっぱり京都が舞台になると派手やかにになる。冒頭のおけら参りの話など雰囲気が良く出ている。百人一首成立時の不明な話、百人一首大会の話、百人一首暗号論などもキャサリンの研究に合わせて地の話としてよく調べられている。人は人をそんなに簡単に殺せるものなのか、砂をまいた位でドアが閉まらなくなるのか、剣山の話はどうなった?、剣山から入る農薬くらいで人が死ぬか?、破魔矢で刺すとはよほどの特注品、ウイスキーぼんぼんはどうやって食わせた?、雨傘、花瓶、松の枝はどうした?小雪は共犯になるはずだが、そっちはどうした?けちをつけだすといくらでもつけられるように思うけれども、パズル的おもしろさをねらっていると解し、満足することにしよう。(1978 44)
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