11枚のトランプ       泡坂 妻夫


創元推理文庫

真敷市公民館創立20周年を祝って、マジキクラブは、11のマジックを披露した。ところが舞台裏で氷酢酸の瓶をひっくり返すやつが出る。鳩のショウでは飛び出すはずの鳩が死んでいた。ゾンビボウルなるボール芸で失敗した五十島は、照れ隠しに卑猥な闘牛師のタンゴを踊った。袋の中の美女では、一度外に出た術者が会場に戻ろうとしたところ、入場券の提示を求められて大騒ぎになった。大変なショーになったが、それはそれなりに終わりが近づいてきた。
フィナーレは、全員が見守る中、仕掛けから水田志摩子が出てくる予定に成っていた。ところが出てこない。彼女は近くの自宅マンションで撲殺されていた。周囲には座長鹿川舜平の書いたカード奇術小説「11枚のトランプ」の小道具が粉々に壊されて散らばっていた。「11枚のトランプ」の中味は以下のとおり。
新会員のために
志摩子さんが本堂に置いたカードの中の1枚を覚え、それを戻し、カードを坊主の元に持参。ハンカチをふると覚えたカードがはらりと落ちる。志摩子さんはカードの表裏を取り違えていたのでした。
青いダイヤ
塩化コバルトの溶液で文字を書くと、濡れているときは分からないが、乾くと青色に発色する。これを使ってカードを当てる。
予言する電報
任意のカードを選ぶと表のベルがなり、郵便配達夫が選んだカードを書いた電報を届ける。52通電報を打って、郵便配達夫から受け取るときに当該電報だけ選び出すもの。
九官鳥の透視術
封筒に適当なカードを入れて、鳥かごに入れると、九官鳥が封筒を外に着きだし、中のカードを声高にしゃべる。鳥かごの底に別のカードいり封筒が用意されている。
赤い電話機
魔法使いに電話をかけると、助手の選んだカードを当ててくれる。実は術者の腹話術。
砂と磁石
封筒に入っている花札を当てるのだが、磁石で花札に仕込んだ鉄片を探し当て、その位置から花札を推定している。
バラのタンゴ
機械が助手の選んだカードを当てるように見えるが、機械室にいてモニターしながら術者がマイクを通してしゃべるもの。
見えないサイン
特殊な色眼鏡を使って、裏に書かれた記号を読みとる奇術があるが、これはそれをコンタクトレンズに仕込んだもの。
パイン氏の奇術
助手が一つのカードを覚える。1から53までの好きな数字を言う。そのカードを取り出すと助手が言う。「あたりました!」実は助手があたっていないのにあたった、と言っただけ。
レコードの中の予言者
5種類のESPカードを助手が選ぶ。術者がレコードをかけると「心にそのカードが浮かんできます。そのカードの模様は…。」と当ててしまう。実はレコードの溝が5つあったのです。
闇の中のカード
助手の覚えたカードを闇の中で見事に取り出してみせる。実はにおいつきのカード!

皆を集めて最後に浮船の間で鹿川舜平が謎を解いてみせる。日本奇術の草創期のころ、ヨーロッパで学んだ蓬丘斎乾城は野辺米太郎と共にワールド魔術団を結成、一大公演を企画したが、火災で挫折してしまった。偶然に志摩子がその奇術の設計図を見つけ、座員の一人を引き入れ、復活を図ろうとしたが、彼女の目的は一重に彼女が中心になることだったのだが…・。
犯人が殺してしまった志摩子を生きているように見せかけるために、奇術のトリックの上を行く入れ替わり劇を演じるところが面白い。

作者の長編第一弾と言うだけあって、作者の特色が十分に生かされている。「11枚のトランプ」という短編集を水田志摩子殺人事件でくるんだような作品。「11枚のトランプ」だけ、読んでも面白い。奇術と推理小説は似た部分が多くあり、奇術を話題にした作品には以下のようなものがある。
クレイトン・ロースン「帽子から飛び出した死」「棺のない死体」
カーター・デイクスン「爬虫類館の殺人」
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